「顔がまっ黄色よ!」と、事あるごとに驚かれるわたしは、肝機能障害を疑い内科を受診した。そして未病を発見するべく血液検査をしたのだ。
その結果を聞くために今日、再びクリニックを訪れたわたしは、じつは密かに数値の異常を願っていた。
「そんなバカげたことがあるか!?」と思うだろう。だがこれこそが本心なのだから仕方ない。
わたしは、とびっきり不健康な数値を叩き出してやろうと、検査の前日に暴飲暴食をしてやった。いや、日頃から暴飲暴食なのだから、いつも通りの食生活を送ったといえばそれまでだが。
買いだめしておいたデコポンを15個、とちおとめを2パック、チーズケーキをホールで丸ごと、もつ鍋4人前、あんかけチャーハン、抹茶チョコ、クリスピードーナツ・・・。こんなバカげた食べ方をすれば、血液検査の前日だからかどうかは関係なく、間違いなく糖尿病まっしぐら。肝機能障害どころか、腎機能も血管も心臓も、あらゆる内臓がやられるだろう。
あぁ、願わくば天寿を全うしたかった。医療費もそこそこに、自分の歯で肉を噛みちぎり、自分の足で地面を踏みしめ、優雅にのんびり老後を楽しむ人生も悪くはない、と思っていた。
しかし本能には抗えなかった。むしろ、いつ死んでも悔いのない生き方を選んでいるわたしは、いつだって欲に正直に生きている。中でも食欲は、物理的に満たされる唯一の欲であり、わたしにも手が届くものである。
そんな手軽に満足を得られる手段を、放棄するバカがどこにいるだろうか?よって、わたしは遠慮なく際限なく食事をするのだ。
・・とまぁこんな調子で生きてきたにもかかわらず、ここまで大病を患うことなく無事に至ったことが奇跡である。だからこそ、「じつは、とんでもない病に蝕(むしば)まれている」と言われたほうが、まだ気が楽なのだ。
(あぁやっぱりそうだったか。そりゃそうだ、そうでもなきゃ不自然だ)
そう思えたほうが幾分マシだろうか。これで不治の病が発覚したとなればシャレにならないが、そうだとしても明日よりも今日知るほうがいい。できればちょっとした病気であってほしいが、こればかりは運を天に任せるしかないだろう。
*
「先に言っておくと、ものすごく健康な体です」
女医は苦笑いでそう告げた。
いつもそうだ、血液検査を受ける前はビクビク怯えながら「わたしは、取り返しのつかない病魔に侵されているんです」などと訴えるが、検査結果を見た医師は困ったような笑いを堪えるような表情で、健康体であることを告げるのだ。
とくに今回は、腎機能の項目でいつも異常がある「クレアチニン」ではなく、「シスタチンC」と「推算GFRcys」を新たに追加するなど、本格的に検査をすることにしたのだ。そんなこともあり、いつもよりナーバスになりながら女医の言葉に耳を傾けた。
「気にしていた肝機能は…どれも正常値ですね。そして糖尿は…血糖値も低いですね。あとは腎機能…どれも基準値内で問題ありません。かなりの健康体ですね」
そんなはずはない。日頃の食生活も相当なものだが、とくに今回、前日に無謀な大食いをしたにもかかわらず、血液検査の数値が正常なはずがない。そんな小細工までしたというのに、女医はいたって真面目な顔のまま、わたしにとって残酷な結果を突きつけたわけだ。
どこか一つでも異常な結果があったほうがいい。少しでも欠陥があったほうが、まだ安心できる。人間とはそんなものなのだから――。
*
そう思いながら、もう何度目かの春。血液検査の結果は、いつだって正常で超健康体なのだ。
健康で良かった!
しかしその食生活で健康とは…特異体質過ぎます!
今日、冷凍しておいた一年前のおむすびを食べたんだけど、カビの味がした!もちろん全部食べた笑