言葉による表現というのは、どうしても限界がある。
過度に期待した分ガッカリさせられたり、その逆に、軽視していたら期待を裏切るほどの充実っぷりだったり。
食べ物に関する過大広告はいただけないが、少なくとも手に取る、あるいは口にしてもらえる程度には、前面に押し出してもらいたいものである。
*
友人のピッツェリアで「肉グラタン」を食べた。
もしも字面だけならば、まったく興味は湧かなかった。だがそこへ、友人による料理の説明があったので、少し興味をそそられたのだ。
「グラタンっていうか、肉団子が入ってるの。牛を丸々一頭、北海道から取り寄せて作ったんだ」
どうやら、良質な牛肉をこねて作った自慢の肉団子らしい。
ゴロっと転がる大ぶりの肉団子に、チーズがたっぷりと絡みつく。てっぺんには、彩を添えるためにブロッコリーが散らばっている。
こんなことを言っては失礼だが、さほど珍しくもなければ、驚くほど美味そうにも見えない。これといってそそられる要素も見当たらないわけで、味の感想を求められたら厳しい案件なのではないか――。
そんなわたしの心を読んだかのように、不安そうな表情で、しかし期待を隠せない眼差しで友人がこちらを見つめる。
(仕方ない、とりあえず食べるか・・・)
巨大な唐揚げほどのサイズの肉団子を箸でつまむと、大きく口を開けてかぶりついた。
(・・・ん?!なんだこの噛みごたえは!?)
「肉団子」と聞いていたので、子どもの弁当に入っている「ミートボール」をイメージしていたわたし。しかしこれは、どちらかというとハンバーグである。
そもそも肉団子とハンバーグの違いが分からないが、勝手なイメージでは
「肉団子は、ひき肉をこねて小さく丸めたもので、値段は安い」
「ハンバーグは、ひき肉と玉ネギ、パン粉などをこねて大きな楕円にしたもので、値段は安くない」
という感じである。おおよそ間違ってないだろう。
ところが、今かぶりついている肉団子とやらは、サイズもデカい上に噛みごたえ十分、さらにジューシーな肉同士のコラボからも、「肉団子」などと呼んではもったいない代物である。
たしかにひき肉のみでできているため、ハンバーグと呼ぶには物足りない気もする。だが、肉料理のレベルとしては、十分ハンバーグを名乗るに相応しいクオリティーだと断言できる。
にもかかわらず「肉団子」などと紹介すれば、顧客は思いっきり誤解するだろう。「肉団子のグラタン」といわれても、「ふーん」という感じで終わるに決まっているからだ。
ハンバーグではないが、ハンバーグ級の肉料理。これはいったい、何と呼んだら誤解を生まないだろうか――。
モグモグと咀嚼を繰り返しながら、正確に臨場感を持ってこの肉団子を表現できる言葉を探すわたし。
肉団子、ミートボール、ビーフボール、肉の団子・・・。
「肉の塊(かたまり)!!」
まったくセンスを感じない、語呂も悪い言葉だが、もはやこれ以外に思いつかないのだから仕方ない。
そうだ、これは肉の塊である。それ以上でもそれ以下でもない、牛肉の塊である!
「どうだ!」といわんばかりの得意顔で友人を見る。だがなぜか、無表情かつ返事に困る顔をしていた。
まぁたしかに、ちょっとダイレクト過ぎるか。じゃあ、助詞の「の」を除いて、「肉塊(にくかい)」はどうだ?
・・・ダメだ。その名前の飲食店が存在する。
かといって「肉団子」のままでは、この肉の塊があまりに可哀そうである。肉団子の範疇を超えるポテンシャルの持ち主であり、どれほど期待されても耐え得るだけの実力を持っているわけで。
うぅむ。なんとか顧客にリアルな肉の状態を伝えたい・・・。
次々と肉の塊を取り皿へ移し、黙々と肉の塊を胃袋へ流し込むうちに、いつしか肉グラタンは空っぽになってしまった。
・・やっぱり肉団子ではダメだ。これでは顧客の期待を裏切ることになる。どうせなら「ハンバーグっぽい肉団子のような肉の塊」くらいの、やや説明チックな名称のほうがマシかもしれない。
いや、やはりストレートに「肉の塊」こそが最もフィットする。肉の塊でいこう!
おっと、どうせならドラマチックに、「本気の肉の塊」なんてのは、どうだろう?
――次の料理に集中する友人は、わたしのアイデアを徹底的に無視するのであった。
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