アサイーボウルという永久凍土との戦い

Pocket

 

所用でアメリカへ来ているのだが、わたしの大好物である「アサイーボウル(açaí bow)」を発見してしまった。

 

アサイーボウルとは、アサイーをスムージー状にしたものの上に、バナナやナッツがのせてある食べ物のこと。

「なんとかボウル」が得意なハワイが発祥らしく、今では世界中で愛される食べ物となった。

 

日本におけるアサイーの代名詞的企業「フルッタフルッタ」によると、「アサイー」はブラジル産のヤシ科の植物で、大きく生長すると25メートルもの高さになる。果実はブルーベリーより一回り大きくて、鮮やかな黒紫色が特徴。

一粒あたり5%ほどしかない可食部には、ポリフェノールや鉄分、ビタミンE、不飽和脂肪酸など、豊富な栄養素や抗酸化成分を蓄えている。そのため、「スーパーフード」「スーパーフルーツ」とも呼ばれ、人々の美と健康を支えているのだ。

そんな奇跡のフルーツを、贅沢かつ美味しく食べられるのが「アサイーボウル」なのである。

 

話は逸れるが、海外でまず間違いなくかかるマジックといえば、外貨による金銭感覚麻痺だろう。

1ドルが日本円でいくらかなど、いちいち気にせず支払いを済ませる。ましてや、現金よりもクレカやデビットカードが主流のアメリカにおいては、安いだの高いだの考える前に「サイン画面」に進んでおり、大事なのは「アサイーボウルを食べるのか、食べないのか」の選択でしかないのだ。

 

長い列に並んで待つこと20分。ようやくわたしの順番が回って来た。

アサイーボウルは4種類あり、最安値は12ドルの「クラシック」。そして一番高いのは、ナッツがふんだんに載せられた、15ドルの「スペシャル」だった。

特段ナッツ類が好きというわけでもないわたしが、わざわざスペシャルを選ぶ必要もないため、あえて値段の安い下から2つを購入することに決めた。

 

最も安いクラシックは、アサイーに輪切りのバナナとグラノーラが散らしてあって12ドル。その次に安いのは13ドルで、クラシックにココナッツとチョコレートが振りかけてあった。

いずれも必要最小限の素材でまとめられており、好感が持てる。

 

さらにキャッシャーのテーブルには、小さなポン・デ・ケイジョ(チーズパン)が4個一袋で売られており、当然そちらも買うことにした。

レジ横の商品をつい買ってしまう「テンション・リダクション作戦」に、まんまと引っかかってやったのだ。

 

こうしてわたしは、キンキンに冷えたアサイーボウル2つと、ホカホカのポン・デ・ケイジョを抱えて、空いているベンチへと向かった。

 

アサイーは、いわゆる冷凍スムージーを半解凍させた状態で提供される。よって、容器を持つ手はみるみる冷えて仮死状態となる。

そこでポン・デ・ケイジョの出番だ。まだ温かいポン・デ・ケイジョをつまみながら、凍った指先をよみがえらせるのだ。

 

この繰り返しでアサイーボウルを食べ進めるのだが、大方の予想通り、小さなポン・デ・ケイジョはすぐになくなった。そして再びわたしの指先は、永久凍土に触り続けることを強制された。

(つ、冷たい。指先の感覚が・・・)

こんな状態にもかかわらず、アサイーボウルは美味い。つまり、アサイーを食べるのを止めて指を助けるのか、指を犠牲にしてアサイーを食べるのか、究極の選択を迫られたのである。

 

(・・アサイーの手を止めることなど、できない)

 

わたしは指先の感覚を失う覚悟を決めた。

 

とにかく急いでアサイーを食べきるのだ。そうすれば凍傷もわずかで済むはず。しかしなぜ、2個も買ってしまったのだろうか――。

 

先を見通す能力に欠けるわたしは、アサイーの表面にトッピングされたバナナやグラノーラだけを先に食べてしまった。

もちろん、多少はアサイーと混ぜてみた。だがいかんせん、半解凍状態のアサイーは硬い。

よって、永久凍土に何度もスプーンを突き刺すことで、少しずつトッピングと凍土とを絡めていたのだが、そんなことをするうちにバナナが一枚、転がり落ちてしまったのだ。

 

(しまった!貴重な一枚が無駄になった!)

 

この経験から、自然に抗うことは止めて、ありのままを楽しむ方向に考えを変更した。

 

こうして、表面上のアサイーとトッピングを食べ尽くしたわたしの手元には、容器を半部以上埋め尽くす半解凍アサイーがズッシリと残った。

それらを片方の容器にまとめてみたところ、山盛りの半解凍アサイーが出来上がった。

 

(・・あぁ、体温が下がっていく)

 

歯をガチガチ言わせながら、血の気の引いた指でアサイーを食べ続けるわたし。それを見ていた外国人が、

「見てあれ、めっちゃ寒そう」

と、笑いながら仲間に告げ口したのを、わたしは決して見逃さなかった。

 

冷房が効きすぎている室内で、手足がむき出しの服装で、指先が凍死するほどの冷たいアサイーを2皿も食べることはなかった。

この状況では、ちょっとやそっとジャンプやダッシュをしたとて体温は戻らない。もう少しで低体温症になりそうだ――。

 

明日は必ず、長袖長ズボンでアサイーを食べよう。

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です