大きなすいかだった(過去形)

Pocket

 

いよいよ、わたしの主食である「すいか」の季節がやってきた。とはいえ、我々消費者は年がら年中すいかを食べさせてもらっているので、いったいいつが旬なのか、いまいちピンとこないところはあるのだが——。

 

甲子園と並んで夏の風物詩の一つに挙げられるすいかは、6月から8月がシーズン。しかしながら、日本一のすいかの生産量を誇る熊本県では、ハウス栽培による“春すいか”の出荷が2月下旬に始まっており、スーパーに祀(まつ)られた立派なすいかを、寒さに震えながら見つめた記憶がよみがえる。

そして、5月の後半あたりで関東地方・・主に千葉県産のすいかが出回り始めるが、わたしは昨日、一足お先に“初物のすいか“を手に入れる機会に恵まれた。

 

 

「これ、いります?」

とある友人が大きなポリ袋を抱えてやってきた。中身はすいかだが、ここ最近・・いや、ここ数年見てきた中で最も大きなサイズだった。

友人いわく、カットしたところで冷蔵庫へ入りきらないため、その扱いについて模索していた・・とのこと。ちょうどそこへ、すいかを主食とする部族たるわたしが現れたので、おすそ分けならぬ丸ごと譲ってくれる話になったのだ。

 

さすがのわたしも、丸ごと一玉を一度に食べるのは厳しい。よって、半分を二回に分けて食べるのだが、そうなると今日だけでなく明日もすいかを満喫できる・・というわけで、ウキウキしながら家路を急いだ。

だがその途中で、料理人である友人の店の前を通りかかった。そして挨拶がてら店内へ踏み込んだところ、わたしがぶら下げているすいかのポリ袋に気づいた友人が、「包丁ないんでしょ?切ってあげようか」と、親切にカットの提案をしてくれたのだ。

 

すいかなんてものは、ポリ袋ごと地面に落とせば割れる若しくはヒビが入る。そうなれば、後は“すいか割り“の要領で適当な大きさに割いて貪り食えばいい——。

こんな野性的な食べ方のわたしからすると、すいかをカットしてもらうだけでも上品でニンゲンらしいデザートになるわけで、「たまには優雅に“おすいか“をいただくのも、悪くないか・・」などと思いながら、かなり大きなボウリングの球を友人へと手渡した。

「どのくらいにする?半分?」

そう聞かれたわたしは、「どうせ切ってもらうなら、4分の1くらいのほうが持ち運びしやすいだろう」と考え、「4分の1で!」と答えた。

 

——これが運命の分かれ道となったのだ。

 

 

数分後、すいかを切り分けてくれたスタッフが白いポリ袋を持って現れたのだが、それを見たわたしは一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

(す、すいかが小っちゃくなってる・・・)

あれほど大きかったすいかが、どうしたらこんな小さくなるのだろうか。しかも、ポリ袋の中には業務用アイスクリームの容器——つまり、食べやすいように一口サイズにカットしてくれたのだ。

そして、わたしは事の重大さに気がついた。

 

(あぁ・・さっき聞かれた「どのくらいにする?」という質問の意味は、「このすいか、どのくらい持って帰る?」という意味だったのか——)

 

この時点で「ごめん、やっぱり半分がいい!」と、照れ笑いしながら頼めばよかったのだが、一口サイズにまでカットしてもらった挙句に「もっとよこせ!」というのは、さすがに盗賊のようでスマートではない。

とはいえ、せっかくもらった大きなすいかを4分の1しか食べられないのは残念すぎる。よく見れば、調理台の上には残り4分の3が神々しく横たわっているではないか。あぁ、今ならまだ間に合う。わたしが4分の1といったのは何等分するかの話であり、わたしが食べる量ではなかったんだ・・と、弁明すればいいだけの話。友人ならばそのくらい理解してくれるし、受け入れてくれるはず——。

 

 

後ろ髪を引かれる思いを胸に、笑顔で感謝を述べながら友人の店を去るわたし。

ハイコンテクストな会話というのは、ときに誤解や齟齬を招きかねない。だからこそ、自分が食べる分量については明確に数値化して伝えるべきだ・・ということを、初物のすいかから教わるゴールデンウィーク最終日なのであった。

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です