ジュクの奇妙な偶然

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2018年、新宿駅は一日の乗降客数359万人というギネス記録を樹立した。

 

JR東日本(5線)をはじめ、京王電鉄、小田急電鉄、東京メトロ、都営地下鉄(2線)が交わる、言わずと知れた日本を代表するターミナル駅・新宿。

ちなみに、出口の数など把握できないほどの多さである。

さらに改札口も多数存在し、一つの改札口に複数の改札機が並んでいることからも、「どの改札機から出てくるか」までを特定するのは、ほぼ不可能といえる。

 

そんな魔界めいた新宿駅の構内で、わたしは偶然、友人と出会った。

しかも、ただ単に友人とすれ違ったのではない。約束など交わしていないのは当然のこと、つい一分前にわたしがメッセージを送った友人が、今まさに目の前を横切ったのだ。

 

ぼーっと人混みを眺めていると、マスクで顔を覆い、前髪で目元が隠れ気味の女性が足早に通り過ぎて行く。

 

(似てるな・・・)

 

仮にそれが友人だとすると、わたしの知らないジャケットを羽織っている。さらに表情に陰りが見られるため、普段からキラキラしている彼女とは対照的である。

 

(ちょうど今さっき、この通行人に似ている友人へLINEを送ったばかりだから、頭の中で彼女の顔が浮かんだのだ。なんていうか、思い込みとは恐ろしいものだな・・・)

 

時間にして一秒、いや、二秒あっただろうか。わたしの前を通り過ぎ、人ごみに沿って左方向へと流れていくその女性。

彼女の斜め後ろ姿を、漠然と視野の片隅で捉えた瞬間、わたしは思わず友人の名を呼んだ。

 

「×××!?」

 

しかしイヤフォンをしている彼女に、わたしの声が届くことはなかった。

そして完全に後頭部を見送ることとなった瞬間、不意に彼女が振り返ったのである。

 

目が合った瞬間、こちらへ一瞥をくれただけで再び前を向いた女性。その瞳は冷酷で、無感情な黒いガラス玉のようだった。

 

(やはり違ったか・・・)

 

それはそうだ。このマンモスステーションの構内で、待ち合わせはおろか、お互いの存在を知らせていないにもかかわらず、偶然出会えるわけがない。

むしろ改札口と時間を指定したところで、ピンポイントに出会うことすら難しい。現に改札機は6機ほど並んでおり、そのうちのどれを通るのかなど、その時点での人の流れによるわけだから。

 

――だが奇跡は起きた。

 

遠ざかる後頭部を見つめるわたしのほうへ、彼女は再び振り返ったのである。

 

(・・・あ、やっぱり!!!)

 

今度は驚きの表情を浮かべながら、わたしに近づく友人。目には生気がよみがえり、いつものキラキラした笑顔がマスクの上からでも想像できる。

 

「何してるの?!こんなところで」

 

当然の質問が飛んでくる。しかしその答えを返す前に、わたしは彼女のポケットを指さしながら、

「携帯見て、はやく!」

と促した。

 

不思議そうな顔でポケットをまさぐる友人。そして取り出したスマホに表示されている、わたしからの未読メッセージを読んだ。

 

「いまちょうど、LINEしたところなんだよ!!」

 

こんな恐ろしい偶然があるだろうか。もしも相手が男ならば、有無を言わさず運命のヒトである。このまま区役所へ向かい、婚姻届けを出す流れだろう。

だが残念なことに、恋人同士ではない我々。それでも惹かれあうかのように、雑踏の中でピンポイントに出会ったのだ。

 

これはもはや、二次元の展開である。

こんな偶然は、狙って実現できるものではない。

 

人間が集まれば集まるほど、そこには不思議な力が漲(みなぎ)る。

なぜなら、良くも悪くも人は人に影響を及ぼしつつ生きていくものだからだ。

 

そしてこの奇妙な偶然が、彼女の今後に良い影響を与えることを願いたい。

 

サムネイル by 希鳳

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