霹靂(へきれき)に辟易(へきえき)

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「遅刻するなよ」

最上級の"嫌味"ととれるメッセージが届いた。とはいえ、これは仕方のない嫌味でもある。なぜならわたしは常に遅刻をするからだ。あえて「遅刻してやろう!」などと企んでいるわけではないが、飛行機に乗るとか試合に出るといった予定以外で、遅刻をしないことはないから不思議である。

 

そしてわたしは、昨日も45分の遅刻をしたらしい。なぜ「らしい」などという他人事のような言葉を使うのかというと、わたし的にはそこまで遅刻をした意識がないからだ。厳密にいうと「何時何分に待ち合わせね!」という約束をしていないため、およそ19時に行けばいいか・・という認識だった。そして実際のところ、19時15分に現着したわけで、"およそ19時"で"19時15分"に着いたのならば、目くじら立てて怒られるほどの遅刻とはいえないだろう。

ところが、待ち合わせをしていた友人からは、

「18時半に現地で・・と、もう一人の待ち人に伝えてあるから、先に行ってるよ」

というメッセージが送られてきた。その話が初耳のわたしにとって、18時半に現着するには今すぐ電車に乗らなければ間に合わない・・という状況だが、まだ自宅かつ出掛ける準備もしていないのだから、どうしようもなかったのだ。

その後、急いで準備をして自宅を飛び出ると、タイミングよくやってきた電車に飛び乗った。こうしてわたしは、自分が考えた"予定通りに"現地へ到着したのである。その時刻が19時15分・・つまり、18時半に現着していた友人にとっては「45分も待たされた!」となるわけだ。

 

そして本日も(幸か不幸か)、昨日45分待たせた友人と18時に銀座で待ち合わせをしていた。そのため、冒頭での発言「遅刻するなよ」が送られてきたのである。

とはいえ今日は、クライアントとの顔合わせも兼ねているため、さすがのわたしも「遅刻しても大丈夫」などとは思ってもいない。だからこそ、早々に準備を整えていつでも出掛けられる状態で待機していたのだ。ところが——。

どこかでビルの解体でもしているのか?と思うほどの、地響きのような大きな音と振動が轟いてきた。時刻は17時、さすがにこの時間にこれほど大きな作業を実施するとは思えない——ではなんの音だ?

 

ドゴゴゴゴゴーー、ドーーーン!!!

 

ビックリするほどの轟音が鳴り響いた・・まさか隣国が攻め込んで来たのか?!もしくは、飛行機が墜落したとか?!

なんとその音は、雷が落ちた音だった。しかも近所がターゲットになった模様。わたしはすぐさま落雷レーダーを開くと、自宅付近の落雷状況を確認した。

(うわ、めっちゃ近くに落ちてる!)

さすがに、落雷の場所が瞬間的に反映されるわけではないだろうから、この落雷マークは先ほどの轟音ではないと思われる。それにしても、すぐそばに落雷マークが・・というか、至る所に黄色い落雷マークが散りばめられており、狭い範囲にもかかわらずマップはまっ黄色に染まっていた。

 

先にも述べた通り、わたしは今日遅刻をするわけにはいかない。多少遅刻をしたところで、人生が終わるわけでもなんでもないのだから、そこまでシビアに捉える必要もないのだが、それでも昨日の今日で遅刻をするのは、なんとなく良くないことのように感じるのだ。

とはいえ、この落雷と豪雨の中をノコノコ出ていくバカはいないだろう。たとえ、どれほど美味そうなエサをぶら下げられたとしても、ヘタすると命懸けのギャンブルとなるわけで、さすがのわたしもホイホイ飛びつくことはできない。

だが、もしかすると昨日待たされた友人は「それでもいいから遅刻するな」と思っているのかもしれない。なぜなら、この豪雨と雷雨が港区限定の現象だとすれば、他地区の人間には伝わらないわけで、「こいつまた遅刻の言い訳してるよ・・」と疑われかねないからだ。

 

(いやいや、それでも無理だろう・・うわっ!また落ちた!!)

鋭く走る閃光の直後に、戦闘機がビルに激突したかのような怒号と衝撃が走った。——無理無理、ぜったいに無理!!!

わたしは大した人間ではない。よって、わたしごときが生きていたところで、誰かのためになることも社会に貢献することもない。・・だがそれでも、命は惜しいのだ。

暴走老人によるプリウスミサイルや、工事現場での鉄骨落下など、その場にいなければ避けられたであろう"不慮の事故"で、この世を去るのは悔しいことである。しかし、雷に打たれて死ぬほど悔しいこともない。なぜなら、雷が鳴り止むまでじっとしていればよかったものを、待ち合わせに遅刻するから・・と、安っぽい正義感を振りかざしてノコノコと外へ出たところを、ドカンと一発霹靂をくらって絶命する——などという人生の終わり方は、どう考えても悔やまれるし、悔やんでも悔やみきれないほど納得がいかないわけで。

 

 

友人やクライアントの信頼を失うことよりも、落雷により死ぬことのほうが、今のわたしにとっては恐ろしいことである。——やむを得ない、身の安全が確認できるまで、無謀な行動は控えることとしよう。

 

こうして、本日も再び「遅刻」が確定したのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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