電気がついていた謎

Pocket

 

(おかしいな・・確かに電気は消したはずだが)

朝か昼かはわからないが、目を開けたわたしは、消したはずの電気がついていることに気がついた。昨夜は5時半・・いや、6時過ぎに就寝したため、眩しい朝日がブラインドの隙間から差し込んでいるのを確認していた。

もはや照明をつける必要もないほどの日光が、狭いわが家へ燦燦と降り注いでいる。——だからこそ、電気を消したのだ。ここまで鮮明かつ明確な理由をもって消灯したのだから、記憶違いのはずがない。

 

さらに腑に落ちないことがある。なぜなら、あの電気をつけるためのリモコンは、テーブルの上に置いてあるのだ。枕元に転がるメガネを手繰り寄せ、念のためリモコンの位置を確認するも、やはりいつもと同じ場所に置いてある。

ということは、誰かがわざわざあのリモコンボタンを押さない限り、電気がつくことはない。そしてわが家は、主の滞在時は常に開錠状態のため、誰かが侵入して電気をつけた可能性を疑うしかないのだ。

 

とはいえ、室内が荒らされた様子もなければ、わたし自身の着衣の乱れもみられない。——いったい何を盗んだというのか。

 

物取りでなければ、盗撮目的で隠しカメラを設置された可能性がある。わたしはすぐさまトイレへ向かい、カメラの存在を探した。ウォシュレットのリモコンの裏側、トイレットペーパーの芯の内側、便器内を掃除するためのブラシ入れなど、トイレの個室内にある物理的なものを隈なく調査したが、小型カメラらしきものは見つからない。

よく、コンセントの内側に忍ばせてあったり、わずか数ミリ程度のサイズのため目視しにくかったり・・という話を聞くが、そういったものを忍ばせる物理的な余裕がないのだから、トイレに隠しカメラの疑いはゼロに近いだろう。

 

(ではいったい、何の目的で忍び込んだのだ・・)

もしかすると、わたしの私生活を監視するために、リビングのどこかにカメラを設置したのではなかろうか——。

だとしても、少なくともわたしが就寝する際に、すでに室内は電気が不要なほど明るかったわけで、そんなところへ侵入してきて、わざわざ電気をつけるバカがいるだろうか——。

 

色々と謎は多いが、気にしたところで仕方がない。わたしのプライベートなど、覗いたところで面白いものではないし、ましてや興奮することもないわけで、だったら放っておいても問題ない。

(・・よし、寝るか)

 

というわけで、なぜリビングの電気が勝手についていたのかは分からないが、これといった異変も感じられないことから、わたしは二度寝をするべくベッドへと戻った。

そして枕に頭を載せて天井仰いだところ、これまた別の異変に気がついたのだ。

(・・・プロペラが止まっている)

そう、天井に設置したシーリングファンが止まっていたのだ。このスイッチはデスクの横に置いてあるため、わたしが寝ぼけてわざわざあそこまで歩き、わざわざスイッチを切ったとは思えない。ではなぜ、プロペラが止まっているのか——。

 

とその時、ふと一つの答えが頭をよぎった。

(停電があったのではなかろうか?)

スマホで停電情報を調べると、なるほど午前6時35分から39分までの間、港区白金で停電があった模様。これにより、シーリングファンがオフになったのだ。

——だったらなぜ、消していた電気がついたのだ。

 

想像するに、リビングの電気は常にオンになっている。それを別売りのリモコンでオフにしているだけなので、実際は「オン」の状態が裏で継続しているわけだ。

であれば、シーリングファンが止まってしまったのはなぜだ?こちらも同じく、常に電源はオンになっている。にもかかわらず、停電により止まったプロペラは、停電が復旧されてからも止まったままなのだ。

リビングの電気とベッドルームの電気と、どちらも常時オンなのに、なぜそれぞれが「逆の状態」に落ち着いたのだろうか——。

 

オフにしたリビングの照明が停電により消えて・・というか、すでに消えていたからそのままで、復旧したからオンになった。そして、オンだったシーリングファンが停電によりオフになり、復旧したらオンになる・・ではないのか?

その他に停電の影響を受けた家電製品は、除湿器がオフになっていたことと、ドリップマシンの時計が0時00分で点滅していたことくらいか。除湿器の対応はシーリングファンのそれと同じなので理解できるが、そうなるとなぜ、オフだったリビングの電気がオンになったのだろう——。

 

 

まぁ、考えたところで答えはでないし、大したことではないのでどうでもいい。というわけで、今度こそ二度寝に向かってまぶたを閉じるのであった。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket