ここ最近、ヘビロテで食べているものといえば、サツマイモと柿である。
数日前、柿胃石なる病気を知り、その治療にコーラが効くと言われ、柿を食べつつコーラで流し込むという、まったくもって不健康な食生活を送っているわたし。
「さすがにこれでは健康を害するだろう」と、そもそも柿の量を減らす努力を試みた。
毎食5個の柿を食べていれば、一日で15個、いや、20個近くを摂取することになる。こんなバカげた食い方を続けて、柿胃石症を恐れるなど愚の骨頂。
ならば、「一回に食べる量を3個までにしよう」という英断を下し、あえて大きめの柿を購入してみた。
(・・量にしたら同じことなのでは)
馬鹿は死ななきゃ治らない、とはよく言ったものである。
そして、柿の代替品として腹を満たす食材に選ばれたのは、言うまでもない、サツマイモである。
我が家には「焼き芋メーカー」なる調理機器があり、これにより最高の逸品を作り上げる自信がある。
そのため、一食で極太のサツマイモを3~4本ペロリと平らげてしまうことから、サツマイモの代わりに水分豊富な果物である「柿」に置き換えることで、密かにダイエットに挑んでいたのだ。
そう、すべてはダイエットのために――。
つまり本末転倒というか、置き換えダイエットで置き換えた食材を、再び置き換えるのだから、一周回って置き換えていないダイエットになるのか。
とにかく、毎日サツマイモを買いあさっては焼き芋メーカーをフル稼働させ、極上の焼き芋を作っては頬張るのである。
しかし先日、秩父へ足を運んだ際に、幻のサツマイモ「太白芋(たいはくいも)」が売られる現場に遭遇してしまったわたし。
(こ、これは・・・!是が非でも買わねば)
自宅には、おととい購入したサツマイモが転がっている。だがわざわざ秩父を訪れて、太白芋を見過ごすような愚かな真似はできない。
こうしてわたしは、3本の立派な太白芋を購入し、大切に抱えながら帰路へとついた。
帰宅後、さっそく焼き芋メーカーに太白芋を押し込むと、待つこと45分。中身は真っ白、舌触りはねっとり、見応え食べ応えともに最上級の焼き芋が出来上がった。
(う、うめぇ!!)
無我夢中で太白芋を食べ漁る。そしてあっという間に、買ってきた3本を平らげてしまった。
しかし、いまいち腹が満たされないわたしは、おととい購入したサツマイモの存在を思い出す。
そうだ、あれを焼こう――。
やはり食材の備蓄があるというのは、安心するものだ。精神衛生上、間違いなく必要な準備といえる。
よかった。備えあれば憂いなし…を実践しておいて。
そして、台所にあるサツマイモの袋に手を伸ばした瞬間、わたしは己の目を疑った。
(な、なんだこの白いフワフワした物体は?!タンポポの綿毛か?!)
サツマイモとビニール袋の間に、なんとも美しい蜘蛛の巣のような白い綿毛が密集しているではないか。
近づいて観察すると、ほんとうにタンポポの綿毛の群集に見える。
ネットで調べると、それは「クモノスカビ」「ケカビ」といわれるカビで、カビ毒の産生は確認されていないとのこと、
さらにクモノスカビは、表面に軽く付着している程度ならば、洗い落とすことで食材は食べられるらしい。
しかしよりによって、わたしがもっとも苦手とする蜘蛛の巣に似ているとは。こんなものに触れようものなら、発狂して記憶を失うことだろう。
蜘蛛の巣というのは、薄気味悪いのと同時に美しさを秘めている。定規や分度器を使わずして、なぜあのような正六角形を生み出すことができるのか――。
不思議ではあるが、そんなことよりも恐怖が先行する。一刻も早く消し去らねばならない。
わたしはガムテープを手に取ると、クモノスカビごとサツマイモをグルグル巻きにした。
もはやこのガムテープの下に、何があるのかすら見当もつかないほど、中途半端にデカい屍が出来上がった。
(・・とにかく蜘蛛は苦手なんだ)
いや、これは蜘蛛ではない。だが今はそこを突っ込むべきではない。
貴重なサツマイモにカビが生えており、しかもそのカビが蜘蛛の巣に似ていることから、わたしの恐怖と怒りを駆り立てたのだ。
こうして、静かにクモノスカビとサツマイモを葬り去ったのであった。
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