弦楽五重奏の生演奏から学んだこと

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久しぶりに弦楽器の生演奏を聞いた。正確には、友人が第二ヴァイオリンとして参加しているため、その雄姿を拝みに来たのだ。

 

そもそも弦楽器と縁のないわたしは、よほどの理由がなければヴァイオリンのコンサートへ足を運ぶことはない。いや、もしかすると人生初のクインテット(五重奏)かもしれない。

とにかく、ステージ中央に集まる5人の精鋭部隊(第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)に代わる代わる熱視線を送りながら、生の弦楽器の響きに酔いしれていた。

 

会場全体の雰囲気も楽しむべく、最後列のど真ん中に陣取ったわたし。おかげで、この会場にいるすべての観客の「後頭部」を眺めることができた。

そこで何が分かったかというと、「弦楽器の調べは眠気を誘う」ということだった。

 

一曲目はゲオルク・フィリップ・テレマン作曲の「ガリバー組曲」。2つのヴァイオリンによる、軽快でキラキラとしたメロディーが特徴。

二人のヴァイオリニストが交互に、あるいは重ねて音を響かせると、ホールの最後列にいても十分な音色が届く。あぁ、ヴァイオリンって素晴らしい――。

 

会場にいる誰もが、うっとり聞きほれているだろう…と辺りを見回したところ、ものすごい数の頭が右へ傾いているではないか!

中には背もたれで後頭部を支えながら、口を開けて天を仰ぐ強者もいる。

かわいそうに、余程つかれているのだろう。首を垂らしながら船をこぐ女性もいる。

 

(始まって数分しか経ってないのに、まるで入眠儀式じゃないか・・・)

 

わたしにとっては初めての生演奏ゆえに、すべてが真新しく感動的なのだが、他の観客らにとっては珍しくもなんともないのだろうか。

もしくは、プロの完璧な演奏というのは、人間の本能的な部分を刺激するのだろうか。

 

こんなにも大勢の人間が、わずか数分で爆睡するとは。ヴァイオリンというのは恐ろしい魅力、いや、魔力を持つ楽器なのだということを知った。

 

そして案の定、ガリバー組曲が終わり拍手の音で目を覚ます、大勢の居眠り客。あたかも「ずっと聞いてました」という顔で、しれっと拍手をしている姿は滑稽である。

まさか最後列から監視されているとも知らずに――。

 

 

休憩をはさんで後半がスタートした。今度は最前列へと移動したわたし。

そこで驚いたのは、チェロの底についている「エンドピン」と呼ばれる金属製の棒の先端が、かなり尖っているということだ。

 

(あれを誤って足の上にでも置いたら、間違いなく穴があくだろう・・・)

 

チェリストが、木材でできたステージにサクッとエンドピンを差し込むと、後半の演奏が始まった。

 

一曲目は、タンゴの巨匠・アストル・ピアソラ作曲の「アディオス・ノニーノ(さよなら、父さん)」。

タンゴ独特のセンチメンタルなメロディーと、ピアソラ独自のクラシック要素を組み合わせた構成は、まさしくアルゼンチン・タンゴ。

 

今は真夏であろう南半球を羨みながら、目の前にいるチェリストの動きに注視する。

すると突然、弓の毛が一本切れた!

 

弓を動かすたびに、ぽよんぽよんとなびく一本の白い毛。とはいえ、チェロの弓は200本程度の弓毛が束ねられているため、1本や2本切れたところでどうってことはない。

しかしあれでは、邪魔で弾きにくいだろう――。

 

無事に曲が終わり、MCが次の曲紹介に入る。するとチェリストは、アホ毛のように浮遊する一本を手繰り寄せると、慣れた手つきでブチっとカットした。

(おお!!カッコいい!!)

弓毛は決して脆くはないはず。演奏中、あれだけの圧と摩擦を受けながらも、平気な顔で耐え凌いでいるのだから。

それなのに、チェリストは片手でタイミングよく、アホ毛を引きちぎったのだ。

 

演奏家というのは、まさかの事態でも冷静沈着。決して動揺などしないのである。

 

そしてもう一つ、気になる楽器があった。それはコントラバスだ。

全長2メートル、オーケストラの中でも最大のサイズを誇るコントラバス。そのてっぺんにある「うずまき」が、なんと「ライオン」だったのだ!

 

コントラバスの「ライオンヘッド」は、演奏に合わせて左右をキョロキョロ見回している。たまにわたしと目が合うことも。

 

――あぁ、なんでうずまきではなく、ライオンなんだ?!

 

 

プロの演奏というのは、心の底から安心して聞き入ることができるため、ついつい余計なところに目がいってしまう――。

ということを、コンサートから学んだのであった。

 

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