4台目の暖房器具が秀逸だった件

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(・・・あったかい)

 

わたしは今、信じられない状況に身を置いている。

コンクリートとガラスでできたこの部屋が、暖まることなどなかったこの部屋が、なんと、間違いなく暖かいのだ。いや、むしろ暑いのだ。

 

こんなこと、今までに一度たりともなかったのに――。

 

 

このマンションに引っ越してきて5年が経過した。

 

一年を通じて常に部屋の文句を言い、事あるごとに酷評してきたわたし。なぜなら、そうされるのに相応しい欠陥住宅だからだ。

「夏は猛暑、冬は極寒。超不快なデザイナーズマンション!」

これぞ正に、この部屋を象徴する決めゼリフである。剥き出しのコンクリートと、3メートル近くあるガラス窓で囲まれた室内は、暖房も冷房も効力を奪われるのだ。

 

そもそも一部屋にエアコンが2基も設置されているのに、室温を調整できないはずがない。・・・普通はそう思うだろう。

だがこの部屋のエアコンは、壁掛け形にもかかわらず壁に埋め込まれているのだ

本来、ビルトインエアコンを設置すべき設計を無視し、壁掛け形の安いエアコンをぶち込んだため、エアコン本体から吹き出る風はすべて「壁の穴の内部」を暖めているのだ。

 

おかげで「壁の穴の内部」は、いつでも設定温度に達しており、すぐにエアコンは休憩してしまう。そして下界で震えるわたしの周りは、息こそ白くならないが外気に近い温度で安定しているわけだ。

そのため、冬の部屋着は上下フリースで防寒対策万全。

トップスは、肌着、トレーナー、フリース。ボトムスは、ジャージ、フリース、毛糸の靴下。むしろこのまま外へ出ても、さほど寒くはない格好である。

 

しかし、さすがに防寒対策を施せど足元は冷える。

エアコンは28度の強風で、天井のシーリングファンは今にも飛びそうなほど激しく回転している。にもかかわらず、暖気は一向に降りてこない。

 

わたしは渋々立ち上がると、手を伸ばしてジャンプした。

(あったかい・・・)

そう、上空はそれなりに暖まっているのだ。

 

そんな「理不尽な部屋」における唯一の味方といえば、カーボンヒーター。電源を入れた途端に赤く色づき、すぐさま手足を温めてくれる優秀な相棒である。

しかしカーボンヒーターは、少しでも離れるとその温もりを感じられなくなる。熱源である遠赤外線は、範囲から外れるとその恩恵を受けることができないからだ。

 

そのため、カーボンヒーターに面した部分だけが温まり、それ以外は相変わらず寒いままとなる。よって、5分おきに体の向きを変えて、細々と暖を取るのであった。

 

――だがこれも、もはや過去の話。

わたしは今日、セラミックヒーターを購入した。Amazonでの評価が77件で「4.5」という優れもの。加えて値段も6,000円程度でお手頃だ。

こうして、我が家における4台目の暖房器具として、本日より稼働してもらうこととなった新入りヒーター。

・・・正直、さほど期待はしていなかった。

 

数年前、ダイソンのファンヒーターを使っていたわたしは、その無能っぷりに衝撃を受けた。

知名度があり高級家電の代名詞でもあるダイソンだが、コンクリートの牢獄ではまったく使い物にならなかった。あれ以来、ファンヒーターのような電気の力で温風が出る暖房器具は、一切信用できなくなったのだ。

 

その後、カーボンヒーターに手足をかざす日々が続いたのである。

 

しかし今回は違う。レビューを見ると満場一致で「あたたかい」と断言しているからだ。

「コンパクトなのにパワーがある」「本当に15秒で暖かくなる」「スイッチ一つで即暖」「コスパ最高!」などなど・・・。

否定的なコメントは「ファンの音が私にはうるさい」というくらいで、そんなものどこ吹く風。除湿器2台が24時間フル稼働の我が家において、音がうるさいなどという概念は存在しない。

 

わたしは、届いたばかりのセラミックヒーターを段ボール箱から取り出すと、すぐさまコンセントに繋いだ。

ピーっという電子音とともにヒーターに命が吹き込まれる。早速、電源ボタンを押す。

フォォォーン

25度の温風が、わたしに向かって吹きつけてきた。

 

(おぉ、あたたかい!!!!)

 

この部屋で、これほどの暖かさを感じたのは初めてだ。信じられないくらいに暖かいじゃないか。

 

さっそくデスクへ移動すると、セラミックヒーターを足元に置いてみた。

 

(おおお、目が乾く!!!)

 

足元から吹きつける強力な温風が、わたしに当たって上方へと向きを変える。そしてそのまま、ダイレクトに顔や目を直撃するのだ。

暖房器具で目が乾くなど、いつ以来だろうか――。

しばらくすると、ほっぺたがポカポカしてきた。さらに角膜の乾燥が進み、コンタクトレンズが剥がれそうになる。

 

(あぁ、なんて幸せなんだ・・・)

 

暖房器具で目や顔が乾燥するなど、この5年間で一度も味わったことがない。

いつだって寒さに震え、フリースやダウンジャケットを羽織ることで防寒対策をとってきたわたし。

室内にもかかわらず、なぜこのような格好をしなければならないのか、何年にもわたって自問自答を繰り返してきた。

 

それが今日、5年目にしてようやく解放されたのだ。

 

――これでもう冬は怖くない。むしろ、無意味なエアコンも使い勝手の悪いカーボンヒーターも、要らないんじゃないか。

 

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