真の「人生の勝者」とは

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必ずしも、高級車の乗り心地が最高というわけではない。たとえばわたしは、リクライニングのきかないベンチシートのトラックが好きである。

長時間座っているとそれなりに不具合が生じるが、だからといって高級車特有のフカフカなシートは性に合わない。むしろ、ああいうラグジュアリーな乗り物は車酔いしてしまうので好きではないのだ。

そして今、我が家でも摩訶不思議な現象が起きている。

 

 

かれこれ15年が過ぎようとしている、苦楽を共にしたニトリのソファベッドがある。やつの人生の前半はベッドとして使用されていたが、引っ越しを機に完全なるソファ兼オブジェとして、いまもなお我が家のリビングで存在感を示している。

そんなニトリのソファベッドが、とうとう引退の時期を迎えた。

そりゃ15年もの長きにわたり55キロの体重を支え続けたのだから、むしろ遅いくらいの引退である。あぁ、さすがはニトリ。まさにお値段以上。

 

一人暮らしにおけるソファの座り方としてありがちなのが、真ん中ばかりに座ってしまうことだ。誰もいないのだから堂々と真ん中に座ればいいわけで、当然といえば当然のこと。だがこれこそが、ソファを早死にさせる罠なのだ。

同じ位置にばかり座っていると、どうしたってその部分のスプリングが傷んだり、そこだけ布や革が擦れたりする。だからあえて、端っこや中途半端な位置に座ることで、ソファの寿命を延ばしてやる努力が必要なのだ。

 

言うまでもなく、この一年間は座る場所に気を使うなどして、老体のソファベッドを労わってきた。だがそれでも、いたずらに寿命を延ばすことはできない。

それこそ、人間の内臓や血管すべてを人工的な装置に置き換えなければ、老衰の進行を止めることができないのと同じで、バカになったスプリングや潰れたクッションを交換するくらいならば、ニトリで新たなソファを購入するほうが安くていいものが手に入るわけで。

(とうとう粗大ごみか・・)

そう諦めかけたところへ、SNSの広告で高反発クッションが出現した。まるで、老いぼれソファベッドを寂しく見下ろすわたしの心境を見透かしたかのように——。

 

そこで色々とクッションを漁るうちに、横長のベンチタイプの椅子用クッションを発見。しかも5センチ刻みのラインナップのため、どんなベンチにも設置することができる。

わたしは早速、老いぼれの身長を測ってみた。長さ185センチで幅50センチ——。

(よしよし、いくらでも在庫があるぞ)

速攻で購入ボタンを押すと、救世主の到着を待ったのである。

 

 

翌朝、救世主が届いた。箱を開けると、三つ折りのマットレスのような縦長クッションが入っている。すぐさまそれを取り出すと、ソファベッドの上に敷いてみた。

(見事にピッタリだ!)

そしておそるおそる腰かけてみると・・・なんということだ!まったく沈まないではないか。厚みのある高反発クッションゆえに、わたしごときが腰掛けたところでびくともしない。

さらに横になってみると、これまた快適極まりないほどのウレタンの反発を感じるのだ。低反発は沈みすぎるため、個人的にはもう少し硬い素材を望んでいたのだが、それがまさにこの硬さなのだ。

 

ブラインドの隙間から強い陽射しが差し込む。

強度近視の突出した眼球に触れない、立体的なつくりのアイマスクを後頭部にひっかけると、高反発マットレスに横たわってみた。——うん、悪くない。

せっかくだからと、旅行用の低反発ネックピローを引っ張り出し、さらに腹の上にバスタオルをかけ、完全なる昼寝の態勢を整えた。

——果たしてどれほどの快眠を満喫できるのだろうか。

 

 

目を開けるとそこは真っ暗闇だった。

当たり前だ、アイマスクを着けているのだから暗いに決まっている。

そんなギャグのような一人突っ込みをしながら、わたしはアイマスクを外した。どのくらい寝たのだろうか?2時間くらいか?それにしてはずいぶんぐっすり眠った気もするが。

 

時計の短針は5を指していた。イマイチ状況が飲み込めないわたしは、アレクサに時間を尋ねてみた。

「午後5時2分です」

ご、午後5時って・・・。

なんとわたしは、おんぼろソファベッドに高反発マットレスを敷いたことで、極上の睡眠を手に入れてしまったのである。

 

日頃から「5時間も寝れば十分」という生活を送っているが、その理由の一つに腰や首が痛くなることが挙げられる。ところが、この高反発マットレスならば、6時間以上寝てもどこも痛くないのである。

 

さらに、これが「正式なベッドではない」というのも、快適を導く要素なのかもしれない。

ご老体のソファに高反発マットレス、枕代わりにネックピロー、布団代わりにバスタオル。そんな寄せ集めのシチュエーションが、なぜか安眠をもたらす気がするのだ。

 

高級マットレスに高級羽布団、さらに高級低反発枕を添えて、最上級の眠りを手に入れるべく尽力したはずの寝床が、この即席簡易ベッドに負けたのである。

つまり、高級だからといってそれが最高であるとは限らないのだ。むしろ、値段やブランドは関係ないのだ。

 

それらの悪魔的要素に惑わされることなく、自分にフィットするアイテムを手に入れた者こそが、人生の勝者なのである。

 

Illustrated by 希鳳

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