爺さんだが若々しい、永遠のアイドル・ピース氏

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本日は、ぎゅうぎゅうに予定が詰まっている合間を縫って、大宮公園小動物園のアイドルである、カピバラのピースに会ってきた。なぜ、そんな忙しい時にわざわざ足を運んだのかというと、カピバラ三兄弟の妹であるチェリーが、今月6日にこの世を去ったからだ。

加えて、遡ること10ヶ月前、もう一人の妹であるラ・メールが、兄弟の中で最初にあの世へと旅立った。当時わたしは、見るからにやつれてしまったラ・メールの様子を見に行かねば・・と思いながらも、ついつい先延ばししていた。そのせいで、ラ・メールと会えぬまま永遠の別れを迎えてしまったのだ。

 

これはカピバラに限った話ではないが、生き物は必ずいつかは命が尽きるもの。そして「都合がつけば」「近いうちに」などと、自分の予定を優先した結果、二度と再開できぬまま後悔だけが残るのである。

だからこそ、なにかのきっかけを作ってでもピースに会っておかなければ、わたしが知る大宮公園のカピバラ三兄弟が、全員いなくなってしまう可能性があったのだ。なんせ、ピースは御年10歳。カピバラのなかでは長生きの部類に入る年齢であり、妹二人に先立たれた今、残されたピースの余生がいつまで続くのかは分からない。それこそ今日が最後かもしれないし、3年後かもしれないし——。

いずれにせよ、ピースが健在な間は何度でも会いに行こうと決めたのである。

 

そんなノスタルジックな気分で、閉園ギリギリに園内へと滑り込んだわたしは、一目散にピースの展示場へと向かった。頼む、どうか生きててくれ——。

そんな切実な願いも虚しく(?)、ピース氏はいつも通りスイスイと池を泳いでいた。おまけに、その姿を見た小さな子どもが、「ママ、カピバラが泳いでるよ」と喜んでいた。——あぁ、まさかピースが老骨に鞭打ってファンサービスをしている事実など、子どもが知る由もない。

 

それにしてもピースは役者である。わたし一人しかいないときは、まるで静止画のようにジッとしているくせに、チラホラと見物客が現れると突如行動を開始するのだから。

まずはお決まりである「池のまわりを一周コース」で観客らの様子をうかがい、それでは満足していないと察するや否や、「池をまたぐ橋でのランウェイ」を披露する。それでも足りないときは「秘技・池中遊泳」へと移り、最後はあちこちに水草を乗っけた状態で、陸地への大ジャンプをもって締めくくるのだ。

(おぉ!見事な着地だぞ、ピース!!)

表情一つ変えずに、そのまま裏口へと消えていくピースは、まさにベテラン演者の風格である。そして、金網越しに地蔵と化したカピバラ(ピース)を確認すると、人々は満足げにその場を去っていくのであった。

 

もうすでに閉園時間は過ぎているのだが、注意されるまで居座るのが輩の流儀。そこでわたしは、「夕飯はまだか」とソワソワするピースの様子を静かに観察してみた。

心なしか、以前より小さくなった気がする。だが体重は42キロ(8月時点)なので、大きな変化はなさそうだ。というか、これまではラ・メールと一緒に展示されていたわけで、そこまでピースのサイズ感を気にしたことなどなかったのかもしれない。

あとは、秋が近づいてきたことで毛がパサパサになり、そのせいで脂肪が落ちて骨ばったボディーが強調された可能性もある。まぁなんだかんだで10歳だからな・・おじいちゃんと呼ばれてもおかしくない年齢なのだから、毛がツヤツヤで筋骨隆々というのも奇妙な話じゃないか。

 

しばらくすると、おもむろにピースがこちらへ近づいて来た。——おぉ、わたしに挨拶でもしてくれるのか?

すると、とくに表情を変えることもなく金網に齧りつくと、ガシャンガシャンと激しく揺さぶり出したのだ。まるで「早くオレの晩飯をよこせ!」と言わんばかりに——。

(うぅん・・すまないなピースよ。わたしはキミの晩飯を持っていないんだ)

とはいえ、もうそろそろディナーが届く頃である。ふと辺りを見渡すと、二人の飼育員がちょうどこちらへやって来る姿が見えた。——ピース、やったな!待望の晩飯だぞ!

 

「あのぉ・・閉園時間を過ぎているので、そろそろお引き取りいただけますか?」

 

——そう、飼育員の目的はピースの夕飯ではなく、いつまでも図々しく居座るニンゲンの排除だったのだ・・・これはこれは、大変失礼いたしました!

 

 

こうしてわたしは、短い時間だったがピースとともに過ごすことができた。

無論、ピースはわたしのことなど認識していないわけで、あくまでこちらからの一方的な片思いではあるが、それでもまたピースじいさんの健康的な歯茎と前歯を拝みに来よう・・と、密かに誓うのであった。

 

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