友人らの思いやりが、悲しいかな、この立派なフォルムを構築するわけで

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暴飲暴食・・というとイメージが悪いので、牛飲馬食と言うべきだろうか。今月に入ってから、わたしは莫大な量の食べ物を食べ、浴びるほどの飲み物を飲んできた。なにも好き好んでそうしたわけではないが、偶然の積み重ねが連日続いたことで、下を向くと呼吸が苦しくなるほどに腹が出っ張ってしまったのだ。

ちなみに、来月の頭に控えた身体測定に向けて、数日前からダイエットを敢行することにしたわたしだが、今日の時点で残念ながらダイエットに着手できていない。言うまでもなく、わたしの意思が弱いことと食べ物に目がないことが原因であるが、それでも、「相手の気持ちを無下にしてまで、ダイエットを貫く価値など微塵もない」という揺るぎない信念があるわけで、もはやどうしようもないのだ。

 

これが"自分事"ならば己が後悔するだけで完結するが、相手の気持ちというのは生ものであり水ものである。そのタイミングは誰にもコントロールすることはできず、相手がそう感じてくれた瞬間こそがすべて——。

そんな、恐ろしく繊細でつかみどころのない感情を大切にするべく、わたしはダイエットを先延ばしするのであった。

 

 

「じつは先日、帰省した際にお土産を買ってきたんだけど、渡せそうにないからまだ次回買ってくるね」

突如こんなメッセージが届いた。まさかの嬉しいニュースに喜ぶと同時に、土産物・・というか食い物にありつけないショックで気が動転しそうになった。何としてでも手に入れなければ——。

(とはいえ、今日という今日こそはダイエットを開始すると決めたばかり。ここはすんなり身を引くのが正解なのでは・・・)

ぼってりと膨らんだ腹をさすりながら、「さすがにこれ以上ダイエットを先延ばしすれば、来週末の身体検査で美ボディを披露することは困難」という、至極当たり前な事実が脳裏をよぎる。やむを得ない、残念だが次回の土産に期待するとしよう——。

 

そう考えたわたしは、その友人に返事を送った・・のだが、どうやら無意識に文章を作っていたらしく、まさかの送信後の文面を見て我ながら驚いた。

「どうにかして受け取るから、ちょっと待って」

ついさっきまで、ダイエットを優先するという強い意志をみせていたはずが、本能がそれを許さなかったのだ。まるで真逆の返事を送ってしまったわけで、驚きよりも呆れてしまう。

 

だが、せっかくわたしのために土産を買ってきてくれた友人の気持ちを考えると、ダイエットなどというちんけな行為のために、その崇高な想いを踏みにじることはできない。

——これは必要なことなのだ。誰がなんと言おうが、土産の菓子を食べることは、わたしにとって必要不可欠な行為なのだ。そう、土産物を食べたらダイエットを始めよう。今度こそ、ダイエットを敢行しよう。

 

 

「オススメの抹茶ジェラートがあるんだけど、小さいやつ食べてみる?」

待ち合わせをしていた友人から、こんなメッセージが届いた。ついさっき"地方の土産菓子を食べたらダイエットを始める"と誓ったばかりだが、それ以前にセーブできるならば極力菓子類は控えるべきだろう。

にもかかわらずこの打診は、まさか試されているのか——?

・・いや、仮に試されているのだとしても構わない。友人のオススメのアイス、しかもわたしの大好物である抹茶味を食べさせてあげたい!という、彼女の思いやりを無下にはできないからだ。

 

「・・食べざるを得ない」

絞り出すように一言だけ返信したわたし。なんせ友人は、わたしのダイエット計画を知っているはず。しかも、腹が臨月のように飛び出ていることも承知している。だからこそ、あえて「小さいやつ」というエクスキューズを付けてきたのだ。

そんな優しさに気づかぬフリは、さすがにできっこない。このアイスを最後に、そして土産の菓子を食べ終えたらダイエットをはじめよう。

 

 

「今日、練習くる?」

抹茶ジェラートを食べる覚悟を決めた直後に、これまた別の友人からメッセージが届いた。しかしながら、今日は練習には行かないのでその旨を伝えると、静かに一枚の画像が送られてきたのだ。

 

(・・・こ、これは!!!)

なんと、わたしの大好物である「こがしバターケーキ」の紙袋が写っているではないか!!!

 

そうか・・彼女はいつの間にか帰省していたのだ。そして"これを買い与えれば、容易にURABEを飼いならすことができるアイテム"を、ちゃんと購入してくれたのだ。あぁ、想像するだけでもヨダレが湧き出てくる。こがしバターケーキ、食いたい——。

 

 

このような"思いやりの連鎖"のせいで、わたしはいつまで経ってもダイエットに着手できないのである。

もしかすると、このままぶくぶくと太り続ける運命なのかもしれないが、それでも背に腹は代えられぬ。友人たちの優しさを無下にしてまで「痩せたい!」と思えるほど、わたしは腐ったオンナではないからだ。

 

とかなんとかカッコつけたところで、身体検査は刻一刻と近づいてくるのだが——。

 

Illustrated by 希鳳

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