メガネの生死は鼻パッド一つで決まる

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どことなく秋の気配を感じる今日この頃、ようやくわたしの願いが叶う時が来た。真夏の間は毎日世話になった"相棒"を、より良くするための修理に出す日がきたのだ。その相棒とは・・サングラスである。

 

「たかがサングラスの修理で、大げさな!」

そう考えるのもごもっともだが、なんせフィットしない状態で7年間も使い続けたのだから、わたしからしたら「待ちに待った待望の瞬間」なのである。そして、なぜそこまで修理を引き延ばしたのかというと、「なんとなくカッコ悪いから」という、薄っぺらい本音があったのだ。

では、いったいどこの修理をするのかというと・・それは鼻パッドの部分だ。

 

 

平たい顔民族である日本人は、メガネの鼻当て部分に苦労するのが宿命。

たとえば、黒縁メガネのような"セルフレーム"にみられる、フレームの一部が隆起した「一体型(鼻盛り)タイプ」だと、装着しただけでフレームの底が頬に触れたり、顔に近づけすぎると瞬きの際にまぶたやまつ毛がレンズに当たったりと、不快な経験を強要される。

そのため、鼻パッドが独立した形で付いている「クリングスタイプ」が好まれるわけだ。

 

そもそも、鼻パッドを考案したのは日本人なのだそう。

遡ること16世紀、キリスト教の宣教師であるフランシスコ・ザビエルの来日とともに、われわれ日本人はメガネというアイテムを入手した。しかし当時のメガネは、フレームの両端に穴をあけて紐を通す形状のため、鼻ぺちゃの日本人にとってはまるでお面を付けているかのようで、まさに嫌がらせそのもの。

そこで、鼻当てを付けることでいい感じにフィットするよう、工夫を凝らしたのだ。

 

だが、あくまで個人的な意見ではあるが、クリングスタイプの鼻パッドはどうもカッコ悪い気がしてならない。あの金属製のパーツと透明なパッドが、真面目でお堅い雰囲気を醸し出すのが気に入らないのだ。もっと自由で弾けた雰囲気を纏いたいのに、鼻パッドがクリングスタイプ・・というだけで、台無しになるから残念で仕方がない。

そんなポリシーからも、わたしが持っているメガネはすべて"一体型の鼻盛りタイプ"なのであった。

 

ところが、一体型の鼻盛りタイプだと、自宅でのメガネ時間がとにかく不快でたまらない。おまけに、メガネで過ごさざるをえない長時間フライトなど、メガネがずり落ちると周りがよく見えないわけで、現実的な不便さを憂慮したわたしは、鼻パッドをクリングスタイプに変える決断を下した。

・・するとこれが、"予想以上にいい感じ"だったのだ。

 

強度近視のわたしはレンズが分厚くなるため、重厚なセルフレームであっても縁からはみ出してしまう。そのため、かなり重たいメガネになるのはやむを得ないことなのだが、とあるメガネショップの店員から「目とレンズの距離を適切に維持するためにも、クリングスタイプがいいですよ」というアドバイスを受けたことがきっかけで、あまり好みではないクリングスタイプの鼻パッドを試すことにしたのだ。

(あれ・・30分経ってもずり落ちてこない!)

普段ならば、メガネをかけて数分で鼻の真ん中あたりまで下がってくるところを、クリングスタイプの鼻パッドがレンズとフレームをしっかりと支えているので、いい位置でピタッと収まっているではないか。

 

こうなったら、見た目がダサかろうが真面目ちゃんだろうが、そんなことよりも「かけ心地」を追求するべきである。そこでわたしは、手元にある"一体型の重量級メガネ"を、それぞれの直営店へ持参してクリングスタイプに変更してもらったのだ。

というわけで、最後の一本となった一体型鼻パッドのメガネこそが、この999.9(フォーナインズ)のサングラスなのである。

太陽がまぶしい季節はおよそ過ぎ去った——今こそ、サングラスの鼻パッドが生まれ変わる時なのだ!

 

 

「大変申し訳ございません、弊社ではクリングスタイプへの付け替えは行っていないんです・・・」

誠実そうな男性店員が、申し訳なさそうに説明をしてくれた。なんと、999.9では鼻パッドの種類を変える修理は行っていないのだそう。

これまでに4本のメガネの鼻パッドを一体型からクリングスタイプに交換してきたが、どこも自社製品であれば気持ちよく変更に応じてくれた。それなのに、ここはダメなのか——。

どうやら、わたしのサングラスのような一体型の鼻盛りタイプは、古いラインナップなのだそう。イマドキの製品ならば調整可能なクリングスタイプが多いが、7年前に購入したこのサングラスは時代に乗り遅れてしまったのだ。

 

(シールタイプのシリコンパッドを貼っても高さの限界はあるし、クリングスタイプじゃないと着け心地が悪いんだよなぁ・・)

ため息をつきながらトボトボと骨董通りを歩いていると、赤いメガネのオブジェが飾られた洒落た店が視界に飛び込んできた。DIGNA HOUSE(ディグナ・ハウス)と書かれた看板を見上げながら店内へと足を踏み入れたわたしは、

「あのぉ・・メーカーで修理ができず、他社製品はお断りの店が多いなか、わたしのサングラスの鼻パッドをクリングスタイプに交換してもらえませんか・・」

と、ダメ元でサングラスを差し出した。すると、あちこちの角度からサングラスを確認した男性店員が、

「工場に送ってみないとわかりませんが、できなくはないと思います」

と、まさかのOKをくれたのである。

 

メガネの大御所であるパリミキの系列店であるこの店は、ビンテージ風のメガネやオーディオセット、オリジナルの補聴器なども販売しており、とにかく洒落た店構えが特徴的。そんな"一杯引っかけるのにちょうどいい雰囲気のメガネ店"で、わたしはまさかの神の声を聞いたのだ。

その後、なぜ他店のメガネを修理したがらないのか・・という理由を尋ねたところ、

「樹脂やプラスティックは長年使うと硬化(劣化)するため、穴をあけるときにヒビが入ったり割れてしまったりすることがあるんです。そういう点からも、他社製品についてはお断りするんだと思います」

と、納得の答えが返ってきた。まぁたしかに、何かあったら責任取れないもんな——。

 

 

そんなこんなで一気にパリミキのファンになったわたしは、福井県・鯖江にある工場で、どうにかクリングスタイプの鼻パッドに交換してもらえることを、切に祈るのであった。

 

サムネイル/DIGNA HOUSE Audio studio

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