奇しくも今、北海道がとんでもないことに。

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所用で北海道へやって来たのだが、なんだこの混みようは——。

羽田空港の時点で札幌便だけがやけに混雑していたが、「どうせ『夏休みだから!』と、浮かれた市民が暑さを逃れるべく、北へと向かうのだろう」と高を括っていた。

 

ところが、客層がちょっと変というか、大自然の中で家族旅行を満喫するというよりは、なんらかの目的で北海道へ向かう人間が多いように感じられたのだ。

たしかにわたしも遊びで北海道へ来たのではない。だがまさか、全員がわたしと同じ目的だとは考えられない——。

 

 

「あれ?こんにちは!」

満席の機内で知人を発見した。中国地方に住むその人が、まさかの同じ飛行機で北海道とは、いったいなんの用事なんだ??

「なに言ってるんですか、インターハイですよ!」

あぁ、なるほど!だからアイツは札幌にいたのか。・・「アイツ」というのは、九州にある高校のバスケ部の顧問をしている友人で、彼がここ数日、SNSで札幌にいることを発信していたのを思い出したのだ。

 

さほど興味もなかったので気にも留めなかったが、いま思えば「頑張って!」という応援コメントが飛び交っていた気がする。

——そうか、インターハイの開催地が今年は北海道なのか。

 

そして、機内で出会った知人も明日の開会式に出席するべく、札幌へ向かうのだそう。

よく見ると周囲の人間が皆、インターハイ関係者に思えて仕方ない。さらに、テニスラケットを背負った生徒たちが大勢乗り込んでいることにも気が付いた。あぁ、これは間違いなくインターハイだ。

 

 

千歳に着くと、レンタカーを借りて宿泊先へと向かった。

ちなみに、レンタカーの店舗もものすごい数の人間で賑わっていた。そのため、利用客がカウンターへ並ぶ通常のやり方ではなく、スタッフから名前を呼ばれた客がカウンターで手続きをするという、店主導のさばき方で来訪客らはコントロールされていた。

 

ホテルでチェックインを済ませると、徒歩数分のところにあるジンギスカンの店へと向かった。たまたまグーグルマップを見ていたら、評価の高い店が近所にあったので、ならば行ってみようかという程度の決め方だった。

だが結果として、その店は大正解だった。

店舗はなんとスーパーハウスを改造したもので、店内にはエアコンすらついていない。その代わりに扇風機が何台か設置されており、モクモクと立ち昇る白煙と炭火による熱気を、ウンウン唸りながら吹き飛ばしていた。

 

最高のジンギスカンを提供するその店の名は、「生ラム モンゴル 街小屋」。それにしても、適当に見つけた店が大当たりだと、なぜか無性に「勝ち組」の気分になるのはなぜだろう。

「じつは店内にはエアコンがありません。ですので、暑さで体調を崩されるかもしれないですが・・・」

閉店時間を確認しようとかけた電話で、女性店員が申し訳なさそうにそう告げた。

なにを言うんだ?冷房がないくらいで倒れるような、そんなヤワな体はしていない。ましてや、ここをどこだと思っているんだ?北の大地、北海道だぞ。都心の異様な蒸し暑さに比べたら、この爽やかな涼しさは天国である。さらに、七輪から顔を覗かせる熱々の炭火など、むしろ友達になれるであろう親近感のわく存在である。

 

こうしてわたしは、手作りのプレハブ店にて、過去最高の生ラムを堪能することとなった。

 

今までも何度となく発言してきたが、食事の美味さは味だけでは決まらない。むしろ雰囲気が重要である

たとえば、スーパーで売られているお値打ち品の炭酸水を、バカラのグラスに注いで出したら、「柔らかな炭酸の舌触りもさることながら、コクと切れ味が絶妙である。これは滅多に出会うことのできない、貴重で高価な炭酸水に違いない!」と、一瞬にして希少価値あふれる逸品に変身するのだから。

 

そしてこの店は、ほぼすべてがDIYでできている。

大きなサイコロのような木製の四角い椅子は、シート面に板状のコルクが敷いてあり、尻がまったく痛くない。さらに、シートを持ち上げれば中に荷物を入れることができるので、広くはない空間を最大限に有効活用できる。

また、無駄を省いた店内の壁にはスピーカーがない代わりに、キッチンに置かれたCDラジカセからスタッフお気に入りの曲が流れてくれば、それだけで店の雰囲気はイマドキに早変わり。

 

窓も入り口も常に全開のため、扇風機によって生まれた対流が炭火や煙を外へ押し出すことで、ジンギスカン特有の「におい」もまったく気にならない。

おまけに、生でも食べられるラム肉にサッと火を通すこと15秒。油断しようものなら肉に火が入りすぎてしまうため、集中しながらトングで肉を裏返し、手を止めることなく食べ続けなければならない。つまり、ラム肉以外に気を遣う余裕などないのだ。

 

・・とその時、店内にいた別のグループからゴルフの話題が聞こえてきた。しかもプロゴルフについて。聞き耳を立てていたわけではないが、明らかに関係者であることが分かる内容と、見事に日に焼けた肌からするに、協会関係者であるのは間違いない。

(インターハイにゴルフってあったっけ?)

スマホで情報を得ようと検索したところ、なんと「日本プロゴルフ選手権大会2023」が、隣り町で開催されていたのだ。真夏の屋外競技は北海道に限る——これが今では常識なのかもしれない。

そんなことを思いながら店内に貼られたポスターに目をやったところ、これまた驚きの事実が記されてあった。

 

「2023年7月30日(日)、千歳のまちの航空祭が開催されます」

ポスターのイラストから、ブルーインパルスやF-15、F-35などの展示飛行が実施される模様。これはもう、千歳市をあげての大イベントである。

ということは、あの莫大な人数の来道客の一部は、ブルーインパルスを見にやって来たのかもしれない。インターハイ、日本プロゴルフ選手権大会、そして千歳のまちの航空祭——。これは大混雑となっても致し方ないわけだ。

 

ちなみに、わたしが北海道を訪れた理由の一つは「全日本モトクロス選手権シリーズ2023 第5戦北海道大会」の観戦である。10年ぶりに開催される全日本モトクロス北海道大会ということで、こちらも当然、大勢のファンが押し寄せるに違いない。

ということは、整理すると「インターハイ」「男子プロゴルフ」「ブルーインパルス」「モトクロス」という、少なくとも4つの大イベントが、同時期に北海道(しかも千歳から札幌エリア)で開催されるという、奇跡的なタイミングが「今」なのだ。

 

(だからホテルがやたらと高かったのか・・・)

 

 

というわけで、気候は爽やかだが人々の熱気は激アツの北海道にて、任務をまっとうするべく生ラムと白米をせっせと掻っ込むのであった。

 

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