最近、寝不足が続いている。理由は簡単だ、カピバラの動画ばかり見ているからだ。YouTubeがオススメ動画として、次から次へとカピバラを紹介してくれるので、こちらもホイホイ釣られて見入ってしまうのだ。
そして気がつけばあっという間に時間は過ぎ、そそくさと仕事に戻るのがルーティンと化している。
しかし、そもそもなぜ私はカピバラに惹かれるのだろうか。ご存じの通り、見た目が特に可愛らしいわけではない。世界最大の齧歯類として有名なカピバラだが、他の齧歯類、たとえばリスやハムスターのような愛くるしさは感じられない。
今一度、カピバラの集団を見てみてほしい。全員が同じ顔をしているではないか。オスかメスかもぱっと見ではわからなない。フォルムは丸みを帯びた巨大たわしで、長くて丸い楕円形の顔を持ち、不機嫌そうな黒目とちっちゃな耳、そして鼻の下を伸ばした様相でノッシノッシと歩いている。あるいは寝ている。
だがよーく見ると、オスは鼻の上に黒いコブがある。モリージョと呼ばれるそのコブは、樹木にこすりつけることで白い粘液がこびりつき、なわばりの主張やメスへのアピールとして使われるのだそう。よって、カピバラのオスだけはモリージョで判別できる。
しかしあれほどまでに個体差の少ない動物というのは、他にいるだろうか。例えば模様のある動物ならば、模様のパターンで識別することができる。また、色や大きさに個体差がある場合も、それらで見分けることができる。
ところがカピバラは、そのほとんどが同じような大きさであり、模様もクソもあったもんじゃない。外国人のSNSではカピバラのことを、
「Wild potatoes(ワイルド・ポテト)」
「 Kiwi Fruit(キウイフルーツ)」
などと表現している。たしかに、ジャガイモがゴロゴロ転がっているようにも見えるし、ゴワゴワの毛で覆われた背中はキウイフルーツにも見える。言い得て妙、とはまさにこのこと。
ちなみに日本語で例えるならば、やはり
「巨大たわし」
だろうか。全然かわいくないので却下されるだろう。
カピバラに限らず羊や豚、黒毛の馬や牛なども同じような条件であり、個体を識別するのに苦労しそうだ。それでもどこか、なんとなく雰囲気が違ったり性格が現れたりするもの。
だがカピバラはそれがない。そもそも動きが少なく、日中はゴロンと昼寝をするか、風呂に入るのが仕事のような彼らは、これといった特徴が少ない。
さらに個体の識別を難しくさせているのは、体中を覆うあの剛毛のせいでもある。
見た感じ、柔らかそうな毛がたくさん生えているように見えるだろう。しかし撫でればわかるが、本当に「たわし」なのだ。硬くて太い剛毛が、ワサワサと生えている。そんな体毛のせいで、個体の特徴が分かりにくくなっているのも一つの要因といえる。
ちなみにカピバラの毛が太くて剛毛なことには理由がある。冬場にカピバラが温泉につかる映像を見たことがあると思うが、あれで湯冷めをしない理由というのが、この剛毛にある。
細くて柔らかい毛であれば、ブルブルっと体を震わせてもあまり水滴が飛ばないため、体を冷やした結果体調を崩してしまうだろう。
ところが太くて剛毛であれば、ブルブルっとやった瞬間に大量の水分が振るい飛ばされて、あっという間に体が乾いてしまうのだ。そのため、湯冷めすることなく毎日温泉につかることができるというわけだ。
しかしYouTubeは世界中のカピバラで溢れている。とくにアメリカでペットとして暮らすカピバラは、犬と同じくらい人間に懐いており、犬用ハーネスを着けて散歩までこなす適応能力を見せる。
ちなみに彼らはご主人さまと一緒にベッドで寝る。自宅には巨大なプールがあるため、朝起きたらプールでスイスイ泳ぎ、それに飽きたらだだっ広い庭を駆け回り、ご飯の時間になったら自身のテーブルにつき、そしてまたご主人さまと一緒に就寝する。
休日は車でショッピングセンターまでお出かけ。カートに乗せられておとなしく店内を移動する姿は、シュールでしかない。
さらに別の国では、犬と追いかけっこをするカピバラの映像が流れてきた。しかし卑怯なことに、犬に追いつかれそうになったカピバラは、ダッシュの勢いそのままに池へ飛び込んだのだ!
たしかに、指の間に水かきが付いているカピバラは泳ぎが得意。5分近く潜水することも可能なのだそう。しかし、犬が水中まで追いかけてこないからといって、弾丸のようにポーンと池へすっ飛んでいく姿は、卑怯ではあるがシュールでもあり、ついつい口元が緩んでしまう。
というわけで、シュールな魅力満載のカピバラを見ていると、あっという間に時間が過ぎてしまうのだ。そしてこれは私の問題ではない、カピバラの問題だ。あれほどまでにシュールな行動をとらなければ、私もここまで彼らに興味を持つ必要などなかったのだから。
というわけで、ゾウガメがカピバラにノッソノッソと突進していく動画を眺めながら、本稿を閉じようと思う。
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