食べ物、とくにスイーツならば、ほぼなんでも大好物の私。だが残念なことに「あんこ」だけは勘弁願いたい。
ということで、それ以外の甘いものは何であろうと、美味しく食べ尽くすことができると自負していた。
今日、あのアイスを食べるまでは。
*
7月に入り、いよいよアイスが幅を利かせる季節となった。帰宅途中のコンビニで、ガリガリ君でもかじろうかとアイスケースを物色したところ、隅っこから変なアイスが存在感を誇示してきた。
こいつはここ最近、ローソンで目にする新人アイスだ。しかも奇をてらった内容に、哀れみすら感じる商品である。たまにいるんだよな、こうやってありえない組み合わせのアイスを商品化するメーカーって。
その名は「ひとくちラッシー&スパイスカレーアイス」、天下の井村屋の新商品である。パッケージは、森永乳業の目玉商品「ピノ」によく似た四角い箱で、中には個包装された6個のアイスが詰められている。
とにかく一目で、
「ラッシーはうまいに決まっているが、なぜスパイスカレーなんかと組み合わせたのだ?」
とツッコミが入るのを待ちわびているかのような、そんな戦略に辟易とする。
だがここは、いっちょ試してみるのもわるくない。なぜなら、気前のいい友人がアイスを買ってくれるらしいので、他人のカネでこのアイスを試せるとは絶好のチャンスに恵まれたわけだ。
(身銭を切ってまで食べたいとは思わないが、懐を傷めずに食べられるならラッキー!)
というわけで、桃のアイスとメロンの飲み物と一緒に、ラッシー&スパイスカレーアイスをレジの横へ置いた。
「アタシも食べてみたい!」
さっそく友人が、この奇をてらったアイスに興味を示した。どうぞどうぞと箱を開けると、まずは己がサッとラッシーを掴んでから、友人にも勧めてやった。
しかしなぜか、彼女はラッシーをつまんだ。なぜだ?このパッケージにそそられたのならば、どう考えてもスパイスカレーのほうだろう?ラッシーなどありふれたテイストだし、そんなものわざわざ食べなくても味の想像がつくはずだ。
私はややイライラしながらも、とりあえずラッシーを口へと放り込んだ。大きさや形もピノに似ているが、なんというかアイス全体に粘り気があり、ねっとりした食感だ。
「ん、普通に美味しいね」
もう一人の友人も勝手にラッシーをつまみ上げて食べていた。ということは、6個の個包装のうち4個がラッシーで、2個がスパイスカレーと書かれているから、残るラッシーは1個しかないということか。
井村屋だってわかっているはず。だからこそ、6個という偶数にもかかわらず半分ずつにしなかったのだ。普通ならば、ラッシーとスパイスカレーを3個ずつにするはず。だがあえてラッシーを多くしたのは、スパイスカレーは不評と予想したからだ。
怖いもの見たさにスパイスカレーを食べた女子が、
「なにこれ!もう食べたくない!!」
となることを想定し、お口直しのラッシーを多めに入れたのだ。それは賢明な判断であるし、それこそが顧客ファーストの発想といえる。
わざわざ買ったアイスを、半分も食べられなければクレームに繋がる。そこで6個中5個は食べられるように設定したというわけだ。
とりあえず私は、本日のメインディッシュとなるスパイスカレーを箱から取り出した。袋を開けた瞬間、ものすごいターメリックの香りが鼻を突く。
(カレーじゃねぇか!!!)
思わず心の中でツッコんだ。それほどまでに、カレーせんべいやカレー味のスナックなんかよりも、リアルに生々しくカレーの匂いがプンプンするのだ。
半分やけくそになりながら、口の中へポイッと放り投げる。歯ごたえはアイスだ。さっき食べたラッシーと同じく、ややねっとりとした伸びを携えている。
だが味は完全にカレーである。カレー以外に例えようのないくらい、ザ・カレーである。しかもしょっぱい!アイスがしょっぱいとは、どういうことだ!アイスを騙るにもほどがある!
どれだけ咀嚼してもしょっぱいうえに、風味豊かなスパイスが口の中へ広がる。この感じ、どこかで味わった気が・・・。
(冷えたカレーの味だ!!!)
思わず膝を打つ。そうだ、これはまさしく「冷えたカレー」である。家庭で大量に作ったカレーを冷凍保存すれば、このアイスが誕生する。それを小さく固めたものが、いま、私の口の中で溶かされているのだ。
先入観など持つべきではないが、アイスといえば甘いというのがお決まりである。甘くないアイスなど、アイス売り場に並べるべきではない。
たとえば冷凍ブロッコリー、あれは甘くないからアイスではない。しかし冷凍パイナップル、あれは甘いからアイス売り場に並べてもいい。
この考えでいくと、冷凍カレーは甘くないからアイスではない。たしかにラッシーという甘いアイスと抱き合わせており、数的にもラッシーが過半数を占めているので、民主主義の観点からするとこのアイスはアイスということになる。
だがいかんせん、カレーは完全にしょっぱい食べ物だ。サツマイモやクリのように「野菜だけど甘い」というのとは、根本的に意味合いが異なる。
これをアイスとして認めてしまっていいものだろうか――。
こうして私は最後のラッシーでお口直しをしながら、このアイスをアイスとして認めるべきか否かについて、頭を悩ませるのであった。
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