たとえば、便座のフタを開けっぱなしにする人物に対して、ちゃんとフタを閉めてから水を流すように忠告したところで、最初の何回かは気を付けるかもしれないが、すぐにやらなくなるだろう。
「三つ子の魂百まで」とまではいわないが、それなりに長年続けてきた無意識のクセ、あるいはこだわりというものは、そう簡単には直らない。
そしてわたしも例外なく、長年拒み続けたこだわりがある。それは、ツードアの冷蔵庫を置かないということだ。
――我が家は狭い。よって、家電製品で場所をとるわけにはいかないのだ。
そんな切実な悩みから、冷蔵庫は1ドアの小型冷蔵庫が設置されている。そう、ホテルの部屋についているアレだ。
小型冷蔵庫のやっかいな点は、製氷機の温度を下げると庫内全体が氷点下となり、あらゆるものが霜だらけになることだ。
メリットといえば、きれいに凍った果物の表面にこびりついた、見本のような氷の結晶を間近で観察することができる。
さらに飲み物も半分凍っているので、振るとカシャンカシャンと氷がぶつかる音がして、年がら年中夏を感じることができる。
そんなことより、リアルに厄介なことといえば、全国から送られてくる「餌付け用の食べ物」が保存できないということだ。
むしろこれこそが最大の悩みであり、これだけのために何度、まともな冷蔵庫を買おうとしたことか。
それでも部屋の狭さは変わらないし、現存の小型冷蔵庫用のラックまで組んでしまったため、今さら普通の冷蔵庫を買う気にもなれなかったのだ。
しかし人間というのは、あれほど大勢から説得されても動かなかった心が、ひょんなことから180度変わってしまうから不思議である。
なんと、ここ数日の間に全国から救援物資が届く可能性があり、いずれも手作り料理であることが判明したのだ。
そのため、これまで頑なに閉ざしてきた「こだわり」という名の鉄の扉を、いよいよ開かざるを得なくなったのである。
とはいえ、冷蔵庫を購入するつもりはない。必要なのは「冷凍庫」だ。
あくまで長期保存が目的のため、コンビニのレジ前に置いてある、スライド式の取り出し口がついた縦型冷凍庫、アレを購入するのだ。
ちなみに友人がこう教えてくれた。
「冷凍庫があれば一か月くらい持つから。ご飯だって一週間は余裕だし」
なんと、そんなにも持つのか?!今までわたしは、到着した料理をその日のうちに、遅くとも翌日中にはすべて平らげていた。
当然のことながら、料理が美味いからこそ、どれだけ大量でも食べきることができる。
だが仮に、何日かに分けて少しずつ味わうことができたならば、それはそれは至福の一週間を過ごすことができるじゃないか。
さらに友人はこうも助言してくれた。
「冷凍庫買ったらさ、冷凍食品をたくさんストックできるよ。エビピラフや唐揚げ、抹茶アイスやガリガリ君も大量に保存できるよ!」
なるほど!たしかにその通りだ。
2ドア式の冷蔵庫の冷凍室は、やはり大きさ的にも限界がある。
しかし60リットルの冷凍庫ならば、ガリガリ君やエビピラフを何十個でも収納できるし、マイナス25度という低温により長期保存が可能となる。
そうしたら、もっと積極的に「餌の供給」を願い出ることができるわけだ!
こうしてわたしは、すぐさまAmazonで「家庭用冷凍庫」を検索し、クリックした。
部屋が狭くなったっていいじゃないか。そのぶん冷凍庫が鎮座するわけで、これからはどんどん食べ物をストックできるのだから。
そう、なにも急いで食べきる必要はない。美味しい手料理を、ゆっくりと時間をかけて味わう贅沢――。
そんな素朴な願いが、今ようやく叶おうとしているのだ。
「え?今さら?って感じだよね笑」
呆れ顔で笑う友人を尻目に、アイリスオーヤマの家庭用冷凍庫を購入したわたし。これで明日、段ボール箱に一杯の食べ物が送られてきても、まったくもって問題ないぞ!
即座に購入確認のメールが届く。Amazonプライム会員のわたしは、無料で翌日配送されるため、確認画面でも「明日配達」の文字を確認。
ところがなぜか、「明日」のはずが「明後日の日付」が記載されているではないか。
(クソッ、1分遅かったか・・・)
日付が変わった0時ちょうどにクリックをしたため、「明日」がリアルに「翌日の日付」となってしまったのだ。
なんてこった!この一分の差はデカい・・。
エスカレーターで地団太を踏んで悔しがるも、もはや手遅れ。
仕方ない。ひとまず送られてくる手料理を掻っ込みながら、冷凍庫が到着するのを待つとしよう。
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