「甘い系だけど、よかったらどーぞ」
そう言いながら友人が、クリスマスカラーで彩られたチルドカップのコーヒーを差し出してきた。それは、スターバックスがホリデーシーズン限定で発売している、ミックスベリーホワイトモカだった。
クリスマスというのは、一年間でもっともビッグなイベントである。クリスチャンであるかどうかは関係なく、真冬の寒い時期に心温まるイベントを求めるのが、人間が持つ本質的な願望なのだろう。
街行く人々は皆、クリスマスに向けて浮足立っているし、子どもたちは「欲しいものが手に入る日」として認識しているし、ケーキ店や精肉店もここぞとばかりに仕込みに力を入れている。その結果、つまらない世の中にひと筋の光が差し込むかのように、クリスマスというイベントがわれわれの心に灯をともすのである。
とはいえ、先月は"ハロウィン月間"ということで、街中はオレンジと紫で染まっていた。ハロウィンというのは、ここ最近蔓延(はびこ)り出した新参者だが、イベント好きな日本人の心を鷲掴みにした威力は絶大。そしてイベントを象徴するカラーリングも、インパクトがある上にオシャレであることから、女子を中心に勢力を拡大させたのだ。
さらに、菓子の売れ行きが爆増するため、製菓業界はハロウィンに便乗して一気に正月まで駆け抜ける計画を立てるのである。
そして迎えた12月は、オレンジと紫は影を潜め、一気に赤と緑に様変わりする。われわれ消費者側も単純ゆえに、赤と緑を見れば「クリスマスだ!」などとウキウキするわけで、色が持つ魔力の恐ろしさを再確認するのであった。
とはいえ、あと10日ほどでクリスマスは終わるが、店内を一気に正月ムードへ豹変させるべく、25日の深夜から26日の開店前までに究極のミッションを完遂しなければならない。そう、"クリスマスの飾り付けを正月仕様に一新する作業"だ。
正月といえば紅白がイメージカラーとなるため、「赤」に関してはクリスマスから引き継げるが、「緑」がどうしても足を引っ張る。そのため、結局はすべての装飾品を引き下げて、和風テイストのオーナメントを設置しなければならない。
もみの木は門松へ、雪だるまは鏡餅へ、リースはしめ縄へとすり替えられ、シャンシャンと鳴り響く鐘の音やマライア・キャリーの歌声は、琴や尺八の安定した雅楽音へとバトンタッチされる。
そしてあの「深夜の早替わり」こそが、日本が誇る伝統芸能、いや、お家芸なのである。
日本国民の習性として、「新しいものに飛びつく」という傾向がある。それは悪いことではないし、むしろ新たな何かを体験し吸収することは、己の成長にも繋がるわけで素晴らしい心掛けといえる。
さらに日本人は「完璧主義」でもあるので、どうせやるなら徹底的にやり込まなければ気が済まない。そのため、ハロウィンならば全力でジャック・オー・ランタンになり、クリスマスならば全力でサンタクロースを演じ、正月には全力で鏡餅に姿を変え、節分には全力で鬼と化すのである。
そんな渾身の「身替わりの術」こそが、忍者の国と恐れられる日本人の特技であり、外国人はその変わり身の早さに唖然とさせられるのだ。
とはいえ、原則として"楽しむこと"が重要であり、その先の細かな部分は二の次でいい。よって、国を挙げての一大イベントが続く今月を、いかに中心人物として楽しめるかが、各々が持つ能力の高さと捉えていいだろう。
つまらない揚げ足取りや屁理屈に耳を貸すくらいなら、当事者になりきってバカを演じるほうが、短い人生を有意義に謳歌できる。中でもわたしは、クリスマスケーキとシュトーレンからのモチへの流れに身を任せ、冬の味覚を満喫しようと思うのである。
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