寝違えからのホモ・サピエンスの根幹を知った朝

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わが家には多数のクッションと枕が存在する。その理由は"お気に入りの一点に出会えないから"だ。

クッションといっても、ソファに並べてあるシャレたお飾りのアレではない。飛行機での長距離移動の際に尻の下に敷く、シートクッションのことだ。これまで数々のシートクッションを試してきたわたしだが、なかなか「これこそが!」という逸品に出会うことはできなかった。というのも、座り心地を重視するあまりに分厚くかさばるものでは、移動の際の荷物となってしまうし、かといってコンパクトに折りたためるものだと座り心地がわるかったりで、帯に短し襷に長し・・といったところ。

それでも、とくにアメリカ方面への長時間フライトにおいて、クッションシートとネックピローは超重要アイテムである。それらがあるかないかで、快適な空の旅となるか地獄の時間となるかが決まるわけで、ここは出し惜しみせずにあらゆる可能性を追求するべきだ・・と、覚悟を決めているのだ。

 

そんなことからも、一回限りで"お飾り"に成り下がったものから、一度も使うことなく放置されているものまで、わが家にはたくさんのクッションが存在するのである。そして、シートクッションと同様の理由でたくさんの枕が陳列されているのもわが家の特徴といえる。こちらについても、睡眠の質を確保するための快適さや首への負担を鑑みると、なかなかベストな相棒と出会うことができずに散財を繰り返しているのが現状。

そんなわけで、とりあえず現時点でのベストといえる枕——テンピュールの横向きでも寝られる枕——のカバーを洗濯したわたしは、やむを得ず別の枕で寝ることにしたわけだが、なんとなく「今日はネックピローで寝てみよう」と思いついたのだ。今でこそ、頸椎カラーが最善のネックピローであることを突き止めたが、それまでに何十個もの類似品を買い漁ってはお蔵入りとなった残骸たち。それらをなんとなく捨てられずにいるわたしは、なかでもお気に入りである"テンピュールのU字型ネックピロー"を今夜のお供に指名したのである。

 

テンピュールの商品の素晴らしさは、なによりも快適なフィット感にある。エネルギー吸収と体圧分散に優れるあの素材は、「テンピュール®」という特許取得済みの低反発素材であり、NASAの科学者らにより発明されたのだそう。当初はスペースシャトルに搭載された技術だったが、後に医療分野で価値を認められ、現在では睡眠の向上に貢献しているわけだ。

そんな、テンピュールのU字型ネックピローの"Uの字"に後頭部をすっぽりと埋めたわたしは、ほどなくして夢の世界へと旅立ったのである。

 

 

(・・・首が回らない)

目覚めた瞬間、天井に固定されたわたしの顔は左右への回転を許さなかった。なぜなら、U字型のネックピローで固定された頭部および頸部が、ガッチリと固まってしまったからだ。

快適な睡眠を満喫したはずなのに、なぜこんなにも首が痛いんだ——。それは、寝返りが打てなかったことで血行不良となり、一部の筋肉が阻血に陥ったり筋肉疲労を起こしたりしたことによる痛み・・そう、いわゆる「根違え」というやつだ。

 

人間は一晩で20回程度の寝返りをうつのが理想。これが少なすぎると、身体にかかる圧力が分散できずに血行不良となり、結果的に"寝違え"を発症する。要するに、適度な寝返りで身体や首への負荷を軽減するのが自然な根姿勢であり、首を固定した状態で長時間じっとしているのは、ラクに思えるが実は身体にとっては拷問だったのだ。

 

これは人生においても同様のことがいえる。束縛される生活は人間の精神を蝕むため、ある程度の自由が必須。ニンゲンという勝手気ままなホモ・サピエンスにとって、フィジカルもメンタルも固定されてはならないのである。

——そんな事実を体感した朝なのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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