(これは、塗っても大丈夫なのだろうか・・・)
アゴを擦り剥いたわたしは、友人からもらった台湾土産の小瓶を眺めていた。"台湾版タイガーバーム"という謳い文句で人気の、「萬應白花油(ばんのうバイファーヨウ)」は、なんとなく効きそうな雰囲気を醸し出している。
ズラリとならんだ四文字熟語は、漢字の様子からなんとなく意味はわかるが、もしも禁忌だった場合にはダメージが大きい。そこで、Googleレンズで翻訳してみると・・
(風邪、頭痛、急性および遅いけいれん、スープと火による怪我、蚊に刺された、熱中症、めまい、原因不明の腫れと中毒、かゆみ、ナイフ傷、乗り物酔い、腹痛、リウマチ性筋肉痛、小児の腹痛)
・・うぅん。とりあえず、ありとあらゆる症状に効く感じである。
しかし、台湾版とはいえ「タイガーバーム」といえば、"肩こり、筋肉痛、打ち身、捻挫、神経痛、リウマチなどに効果を発揮する外用消炎鎮痛剤"として名の知れた、第3類医薬品である。要するに、筋肉や神経の痛みに効果があるわけで、切り傷や擦り傷に効くとは聞いたことがない。
それこそ、家庭用常備薬として有名なオロナインと混同しがちだが、外傷についての効能がオロナインにはあってタイガーバームにはない可能性があるわけで、ここはハッキリさせておく必要がある。
ところが、白花油には「ナイフ傷」という翻訳があるため、これならばアゴの擦り傷にも効くに違いない。それにしても、ナイフの傷に限定する理由は何なんだろう——。
というわけで、疑心暗鬼のまま白花油を指先に垂らすと、アゴにそっと塗ってみた。
(・・・イッテェ!!!)
ハッカの香りがツンと鼻を刺すこのオイル、めちゃくちゃ沁みるじゃないか。Googleレンズで成分を翻訳してみると、
「各ピンチに含まれる成分:メントール、ウィンターグリーンオイル、ユーカリ油、カンファー、ラベンダーオイル」
と出てきた。なるほど、ユーカリ油は抗菌や殺虫効果に優れていることから、"ナイフ傷に効く"というのは間違いないだろう。とはいえ、ジンジンヒリヒリと痛みが続くのは、どうしようもないのだろうか——。
ブツブツと不満を呟きながらスマホをいじって気を紛らわせていると、いつの間にかアゴの疼きはおさまっていた。今さらだが、本当に傷に対して効果があるのかは不明ではあるが、仮に効果がなかったとしても"傷口を晒しておくより、何かを塗っておくほうが安心できる"という感覚は、多くの者の共感を得られるはず。
たとえばリップスティックなどがそれにあたる。メンソレータムの薬用リップは「傷がある時は使用しないでください」との注意書きがあるが、唇がひどく荒れてガサガサになっていれば、それは同時に傷口もできているわけで、そこへリップを塗らないわけにはいかない。
となれば、傷がある時は使用禁止といわれたところで、ガサガサ>傷という優先順位は変わらないのだから、禁忌を無視して保湿をとるのは当然のこと。
これと同じで、白花油が傷に対して禁止あるいは無意味だったとしても、なにも塗らずに晒しておくよりは何か塗っておきたい・・というのがニンゲンの心理。妙に沁みたことは気になるが、今となっては過去の話である。それにしても、少し経ったらアゴが乾燥してきたぞ——。
皮膚が乾燥してきたせいで突っ張るような不快感を覚えたわたしは、なにか保湿できそうなアイテムを探した。ハンドクリームが目の前に転がっているが、傷口に塗るのは気が引ける。他になにか・・・あ、あった。
*
結局、白花油が万能なのではなく、メンソレータムの薬用リップスティックが万能なのである。アゴ先にちょんちょんとリップスティックを押し付けると、またもやジンジン疼き始めた。それでも、アゴを動かしても先ほどまでの突っ張りは感じられず、ワセリンの被膜で守られている感じがする。
(コレコレ!この感じを求めていたんだ)
——要するに、なんでもいいのだろう。
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