なぜ私が、ヤンキー座りとスタンディングを繰り返すのか?

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帰宅して二時間が経つが、わたしはまだ部屋着に着替えることができずに震えている。帰宅してすぐにエアコンのスイッチを入れたが、直立したわたしの頭上を暖かい風が漂うも、ソファに座ればじっとしていられないほどの冷気に脅かされるため、脱いだダウンジャケットに再び袖を通す・・という、謎の格好でデスクに向かっているのだ。

正確には、さっきまではデスクと向き合っていたが、今は別のモノの前に座っている・・いや、しゃがんでいる。そのモノとは——洗濯機である。

 

 

たいして広くもないくせに天井が高いがために、室内がまったく暖まらない・・という現象が、わが家の冬の風物詩。とはいえ、天井が高い部屋などいくらでも存在するだろうが、わが家における究極の欠陥部分は「壁掛け式のエアコンが、壁に埋め込まれている」というところにある。

法律違反とまではいかないだろうが、本来は壁に掛けて使用するはずの家電製品を、壁の内側にある小部屋にはめ込んで使うのだから、エアコンの機能に何らかの不具合が生じてもおかしくはないし、そうなれば責任問題に発展する恐れもある。

そんな"裁判沙汰のリスクを内包するわが家"は、とにかく寒い。だが、上空を暖め続けるエアコンを責めるわけにもいかないので、わたしは仕方なく足元専用の暖房器具(セラミックファンヒーター)を購入した。それらの設置場所は、デスクの足元と洗面所の二か所。

 

ちなみに、デスクは長時間滞在するので、足元を暖める必要があるのはいうまでもないが、洗面所のヒーターこそが"この家でもっとも重宝している家電製品"といっても過言ではない活躍ぶりを見せている。

洗面所には、洗面台の背後に洗濯機が置いてあり、洗面台と隣接するように浴室・・といってもバスタブとシャワーのみの簡易バスルームではあるが、そんな作りとなっている。当然ながらこのエリアがもっとも冷えるわけで、歯磨きや洗顔のみならず洗濯物を取り出す際にも、室内に居ながらにして厳しい寒さと戦わなければならないわけで・・。

そんな"苦行の辛さ"を和らげてくれるのが、セラミックヒーターなのだ。小ぶりなサイズではあるが、そこから出てくる確実に温かい風を感じると、「あぁ、生きててよかった・・」と心底感謝したくなる上に、その温風を浴びている間は荒んだ心も穏やかになり、全ての人々に優しくなれる気がするから不思議なのだ。

 

——そして今、わたしはセラミックヒーターの前にしゃがみながら、カシャカシャとパソコンをいじっている。同じ体勢を続けていると足が痺れるので、そうなったら立ち上がり洗濯機の上にパソコンを置いて、立ったままカシャカシャと文字を入力している。

「デスクの足元にもヒーターがあるのに、なぜわざわざ洗面所なんかで仕事をするの?」

そう疑問に思う者もいるだろう。だが、実際にその環境に身を置かなければ知り得ない感覚があるわけで、なぜデスクではなく洗面所なのか——という問いの答えは、"洗面所は狭くて窮屈ゆえに、暖かさが籠(こも)ることからも、桁違いの快適さを得られるから"である。

 

元来、広い場所よりも狭苦しいところを好む傾向にあるわたしは、身動きがとりにくいほどの窮屈な空間のほうが安心できる。そして、そんな狭い空間のほうが熱伝導率も高いわけで、さっきまでブルブルと震えていたわたしが、今ではホクホクの笑顔で作業をこなしているのが何よりの証拠。

さらに、同じ姿勢で長時間座っていると必然的に腰や尻が痛くなる。デスクとセットの椅子には、テンピュールの座布団を三枚重ねているわけだが、それでも立ったり動いたりしなければ下半身は瀕死状態となるため、洗面所でヤンキー座りとスタンディングを交互に繰り返すことは、ある意味「合理的かつ正しい身体への配慮」といえるのだ。

 

そして、これらを可能にしたのが小さなファンヒーターの存在であり、言葉にできないほどの感動とありったけの称賛を送りたい。

なんだかんだ言っても、実のところはまだダウンジャケットを脱ぐことができず、外出着のまま暖をとっているが、それでも減らず口を叩けるほどの余裕が出てきたのは、わたし自身が「寒くない」と思えるようになったからだろう。

(あぁ、このままここで寝てしまいたい・・・)

ベッドで横にならなくてもいいから、暖かい風に当たったまま眠りに就けたら最高なのに——などという妄想を抱きながら、せっせと残務処理に励むのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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