出頭まであと数時間、白紙の書類を前に呆然と佇む私

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正直な話、わたしは書類作成が苦手だ。むしろ、書類作成が得意な人間というのが存在するのだろうか・・と疑いたくなるほど、"書類"という言葉自体に嫌悪感を抱いている。

こうして、自分の脳に浮かんだ言葉を文字に落とし込むことは、得意というか苦にならないが、役所や企業に提出する書類というのはどうも好きになれない。

なんていうか、無駄なことを繰り返し記入させられる"ダブル無駄"に、虫唾が走るのだ。

 

それゆえ、期限の決まった書類提出は期限当日まで手を付けようとせず、当日の0時を過ぎてからあたふたするのが常である。

おっと、誤解のないように補足しておくが、仕事で扱う書類に関しては真逆である。書類作成が嫌いだからこそ、他人の書類を自分の手元に置いておくことが許し難い違和感となるため、なにを差し置いてでもサッサと手放すのだ。

それこそ、ランチの直前だったとしても、仕事を後回しにしては飯がまずくなるため、書類が完成するまではおあずけ状態を貫くのである。

 

そんな美学を持つわたしだが、自分自身のこととなるとてんでダメなのだ。

「どうせ困るのは自分。しかも、誰かに迷惑をかけるわけではないし、ギリギリまでそっとしておこう」

そう、猛獣に触れるのは最後の最後でいい。早々と起こす必要はないんだ——。

 

そう思い込ませることで、わたしは書類作成を先延ばしし、ついに提出期限の午前0時を迎えたのである。

 

目の前にあるのは、三年に一度の散弾銃の更新と、毎年行われる銃検査の書類だ。とくに銃の更新については、三年前から決まっていることなのだから、準備をする時間など腐るほどあった。

だからこそ、臭い物に蓋をする・・ではないが、機が熟すまでそっとしておいたのだ。そしてそのツケが今、わたしに牙を剥く形で目の前に現れた。

 

とはいえ、まったくの白紙状態というわけではない。気のいい友人が、最低限の情報を記入した書類のひな型を送ってくれたため、わたしは残りの部分を埋めるだけでよかったからだ。

そんな甘やかされた状況も後押しし、わたしはなおさら何もせず、ただひたすら期日を待ったのである。

 

 

「では、24日の正午に」

管轄の警察署へ連絡し、わたしが出頭する日時が決まった。これだけでもう、ミッションをコンプリートした気分である。

 

とはいえわたしもバカではない。わたし自身で作成しなければならない書類以外の、他人の力を借りなければならないものについては、先月中に手配を済ませてある。

たとえば、わたしの精神状態がまともであることを証明するための診断書や、わたしに破産歴がないことの証明となる身分証明書、ほかにも、指定された座学の講習会や実技のテストなど、思い立ってすぐに準備ができるものではない書類については、ちゃっかり着手してあるのだ。

 

あとはわたし自身が奮い立つことで、すべての書類が完成する——という段階まできているわけだが、如何せん気が乗らない。

そんなこんなで、とうとう当日を迎えたわけだ。

 

(名前、住所、生年月日、連絡先・・・とっくに分かっていることばかりじゃないか)

たしか何年か前に、マイナンバー制度というプロジェクトが開始されたはず。そして、日本に住民登録のある者は、12桁の番号が自動的に付番される仕組みになっている。

であれば、何度も何度も同じような情報を記入させる前に、マイナンバー一発で終わらせればいいじゃないか。

 

おまけになんだこの㊞という記号は。これはつまり、押印を求めるマークだろう。これまた数年前、各種メディアで「ハンコ廃止!」の見出しが躍った記憶があるが、あれは幻だったのだろうか。

そういえば、わたしの認印はどこにあるんだ——。

いや、それどころじゃない。実印すらどこにしまい込んだのか覚えていない。

 

・・こんなことを考えながら、わたしはバナナフィッシュというアニメを見始めてしまった。これまたなんとも後味の悪そうなストーリーである。

今日の正午、わたしは警察へ出頭しなければならない。なのに、こんな胸糞アニメに足を突っ込んだとなると、その先に待つのは地獄しかないだろう。

 

あぁ、わたしの書類は完成するのだろうか——。

 

Illustrated by 希鳳

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