大手町駅ダンジョン攻略なるか

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「駅から徒歩〇分」という表記について、80メートルを一分でカウントしている・・というのは有名な話だが、早歩きをすればもっと早く着くことができるので、「歩く速度」の部分はさほど問題にはならない。

ところが、「駅」というのがいったいどこを指しているのかによって、「〇分」の意味合いがまるで変ってくるところが恐ろしい。さらにそれがハブ駅だったりすると、駅の出口が無数に存在するため、"最寄りの出口から徒歩〇分"が正しかったとしても、改札へたどり着くまで・・いや、ホームへ降り立つまでに10分近くかかる場合もある。

そしてわたしは、「大手町駅から徒歩5分」という案内を信じて、約束の時間の15分前に大手町駅へと降り立ったのである。

 

(C2bはどこだ・・)

現代版の巨大ダンジョンのような大手町駅の構内をさまよいながら、目的地への最寄り出口を探すわたしは、黄色の案内図のみを頼りに歩を進めた。——これはまさに、ウォークラリーさながらの歩きごたえとドキドキだ。といっても、そのドキドキは「楽しみが待っている」という期待感ではなく、「本当にあと15分で目的地に着けるのか」という焦りと不安のドキドキなのだが。

なんせ、大手町駅には地下鉄が5路線も通っている。しかも、どれも有名どころばかりなので、トップ選手が集う全日本選手権さながらの威圧感を放ち、「大手町駅といえば〇〇線」の看板を奪取するべく、互いに競い合っているわけだ。

そのため、出口の数は40を超えており、路線や車両によっては「いつまでたっても地上に出られない」という罠にハマる可能性もある。

 

わたしが目指すC2b出口は、大手町駅構内の最北端の出口。そして、わたしの路線である都営三田線管轄の出口は「D」のため、その隣にある千代田線管轄の「C」を目指して直進するのだが、南北に伸びるホームと通路をひたすら北上するわけで、少なくともホーム二つ分を踏破しなければならない。

この長い道のりをせっせと歩きながら、「これは、永田町駅の4番出口へ向かうのと似ているな」と思った。永田町駅は赤坂見附駅と繋がっており、わたしが利用する南北線から4番出口へ向かおうとすると、いったん半蔵門線のホームを通過してからでないとたどり着けない。そのため、「永田町駅からも近いよ」という誘い文句に乗ると散々な目に遭うわけで・・。

 

他にも"乗り換え要注意の駅"はいくつか存在するが、そこでの痛い思い出などを振り返りながらも、無機質な地下道をC2b出口に向かって黙々と進むわたしは、「C14」からスタートした数字が「C4」までカウントダウンされたことに喜びを感じた。あと少しで地上に出られる——。

そしていよいよ「C2」の表示が現れた。まずは手前にあるC2aを通過しさらに北上を続けた結果、待望のC2b出口へとたどり着いたのだ。あぁ、ついにダンジョンを攻略したぞ!

 

終わってみると、なぜか達成感しか残っていないのがニンゲンの単純なところ。あとは、陽の当たらない地下から地上へ出られたことへの解放感とでも言おうか、清々しい気持ちになれるのも地上到達の副産物かもしれない。

そして、この出口から徒歩5分で目的地に着く・・・って、約束の時間まであと4分しかないじゃないか!!!

 

——およそわたしを知っている者ならば、このオチは予想できただろう。通い慣れた土地ならばまだしも、生まれて初めて向かう場所・・しかも大手町駅という得体の知れない巨大ダンジョンにもかかわらず、10分の猶予しか考慮しなかったのは完全にわたしのミス。

東京に住んで随分経つが、大手町駅といったら皇居と東京駅のお膝元であり、むしろ東京のど真ん中・・核心を突くエリアといっても過言ではない。その地下にある巨大ダンジョンを、ある意味わたしは舐めていたのだ。

 

この前、とある乗り継ぎで「新宿駅にて、丸ノ内線から京王線への乗り換え5分」と、「渋谷駅にて、銀座線から京王線への乗り換え5分」という選択を迫られたことがあった。いずれの駅もよく知っているが、さすがに「(新宿駅で)丸ノ内線から京王線のホームまでを5分で移動するのは無理ではなかろうか?」という疑問が湧いたのだ。

単なる移動距離だけでなく、一日の乗降客数350万人を誇る世界最大のマンモス駅たる新宿駅にて、端と端に位置する丸ノ内線と京王線間を5分で移動、しかも「乗車する」というミッションをクリアするのは簡単なことではない・・と悟ったわたしは、渋谷駅での乗り換えを選んだ。ここならば、混雑具合いを加味しても改札を突破するのに5分はかからないことを、経験上知っていたからだ。

 

——このくらいの予防線は張っておくべきだった。なんせ相手は、天下の大手町駅なのだから。

 

 

地上に這い上がったわたしは、水を得た魚のように生き生きと走り出した。そもそも走ることは嫌いだが、遅刻という失態だけは避けるべく、全力疾走で千代田区を駆け抜けたのである。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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