舌を襲う強烈な刺激と下腹部から鳴り響く異音

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(ぬっ!!!)

最後の一口を飲み干そうとした瞬間、強烈な刺激がわたしの舌を襲った。そんなはずはない、今までなんの異常も感じずに嚥下していた飲み物が、最後の最後で豹変するなどありえないからだ。

 

いったい何を飲んでいるのかというと、賞味期限が一年経過した粉末のBCAA(アミノ酸)を溶かした水である。プロテインやBCAAなど、栄養補助食品を摂取する習慣のないわたしは、過去にもらったそれらの小袋を処分するべく、開封してみたのだ。

味はレモンかグレープフルーツのような、黄色い柑橘系だったと思う。スポーツ飲料としてはありがちな風味であり、喉が渇いている今ならばゴクゴク飲めるだろう——。

そう、ちょうど喉がカラカラだったわたしは、「どうせ水道水を飲むなら、この粉で味付けして飲んでみよう」と思ったのである。そこで、およそ1リットルの水に賞味期限が一年経過したBCAAを一袋投入してみた。

 

(ちょっと少ないかな。もう一袋入れてみるか・・)

せっかくだからと、贅沢に二袋のBCAAで味付けをした水道水を揺らしながら、なかなか溶けない粉にイライラしていた。箸やスプーンなど棒状のものでかき回せばいいのだが、使用済みのそれらを洗うことが面倒なわたしは、揺らすことでどうにか解決しようと試みたわけだ。

しかし、表面で固まったまま動かないBCAAは、なかなかの強情っぱりである。意固地になって揺らせば水がこぼれるし、かといって混ぜなければただの水と粉のまま。なんとかして溶かさなければ——。

 

そこで思いついたのは、表面で固まっている粉と水を口へ注ぎ込み、口内で混ぜるという作戦だ。多少は味が濃くなるかもしれないが、このまま飲むよりはマシだろう。

(・・す、酸っぱい)

やはり粉の塊に対する水分量が少なすぎたのだろう。苦酸っぱいというべきか、強い酸味と苦味が口の中で爆発した。慌てて飲み込むも、しつこい苦味が粘膜にへばりついて離れない。やむなく水を流し込み、口内洗浄することで対処した。

 

ダメだ、粉は完全に溶かさなければとてもじゃないが飲めない——。

そこでわたしは、再び静かに容器を揺らし始めた。一リットルの麦茶が作れる冷水筒(麦茶ポット)に、BCAA二袋と水道水を入れたがフタはしていない。なぜなら、後でフタを洗うのが面倒だからだ。

そのため、ゆっくりと大きく回すように粉と水とを同化させなければならず、思うようにシェイクできないのである。それでも根気強く、巨大な津波を起こすかのように水面を操り、なんとか目に見える範囲の粉末を消去することに成功した。

 

こうして出来上がった「賞味期限が一年経過したBCAA水」を、ピッチャーごとゴクゴク飲み干した。そして最後の数滴を口へと流し込んだ瞬間、目が覚めるような強烈な刺激に襲われた。

(ぬっ、なんだこの刺激は!!)

まるで映画やアニメで毒を盛られた登場人物の心境だった。明らかに人体に有害であろう刺激を、わたしの舌が察知したのだ。

 

とはいえ、今まで何事もなく飲み続けてきたわけで、最後の最後で突如「有毒化」するなど考えられない。これは気のせいだ——。

いやいや、気のせいではない。その証拠に舌が痺れているではないか。

わたしはこの事実をかき消すためにも、急いで大量の水道水を口に含んだ。解毒の基本は水で洗い流すこと、もしくは薄めることだ。今できる最善策はこれしかない、とにかく大量の水を飲むのだ!

 

もうすでに1リットルの水分を摂取しているが、それとは別に解毒用の1リットルを胃袋へと流し込んだわたしは、タポタポの腹をさすりながらソファーへ横たわった。

その数分後、突如、腸のあたりからなんらかの活動音が鳴り響いた。腹部の空洞がスピーカー機能となり、聞いたことのない甲高い異音が鳴り響く。まるで車のファンベルトが鳴いているかのような、人体から発する音とは思えないようなキュルキュル音が、わたしの下腹部から発せられている。

(なんなんだ、いったい何が起きようとしているのだ・・)

 

 

とてつもない下痢や嘔吐に襲われる覚悟はあったが、何時間経ってもそういった症状は現れず、なんとも平和な時間が流れた。

あの強烈な刺激とキュルキュル音の正体は、なんだったのだろうか——。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

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