都心で初診で誤診

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第六感というと大袈裟だが、本当に今日はスタバに入るつもりだったんだ。だが目黒のスタバは洒落ているため、いつも混んでいる。それで今日も入れなかったんだ。

とそのとき目に入ったのが、同じビルにある整形外科クリニック。チラッと覗くと患者の姿は見えない。今ならすぐに診察してもらえるだろう。

さらに普段ならば絶対に持ち歩かない保険証を、なぜか今日は持っていた。というか、アメリカへ持っていった小銭入れ(小銭も大銭も入っていないが)に、保険証と運転免許証だけを入れており、その小銭入れがたまたま今日のバッグに入っていたというだけなのだが。

 

しかしこんな、ビルのテナントで入っているようなクリニック、診察してもらったところで答えは出ない。なぜならレントゲンもなければMRIなんかあるはずもないからだ。医師の視診・触診などからおよその診断がつけられ、後日レントゲンという流れだろう。いいところ、痛み止めを処方されて終わりだ。

次の予定まであと30分。カフェに入れたらよかったが、あいにくスタバは満席。しかもわたしは一回の注文で4~5杯飲むため、30分では時間が足りない。

ならばこの、閑古鳥が鳴くクリニックで時間をつぶそう。大したことができないならばなおさらちょうどいい。医者と世間話でもしながら湿布と痛み止めを処方してもらおう――。

 

一昨日から、右足の甲だか裏だかが痛い。歩くと足の裏が痛み、足の甲はまぁるく腫れている。あぐらをかいて足の裏を見ると、こちらも腫れているように見える。つまり右足の先端が全体的にクリームパンぽくなっているのだ。

とはいえ歩けるし、大きな怪我をしているとは思えない。ただ、つま先立ちというか、クラウチングスタートのように足の指を反らせると、声にならない叫びとともに悶えるくらいで。

 

しかしこの痛み、一体どこに原因があるのだろうか。指の付け根が痛むわけで、どういう診断がつくのだろうか――。

ちょっとした興味も後押しし、クリニックの入り口をくぐった。

 

外観からは単なる狭いクリニックにしか見えない。しかし足を踏み入れて驚いたのは、トイレと見間違うようなサイズのドアに、赤いランプとともに「レントゲン室」という文字が書かれていたことだ。

(こんなクソ狭い町医者みたいなクリニックに、レントゲン室があるのか!)

とはいえ冷静に考えてみれば、レントゲン設備のない整形外科というのは逆に珍しい。歯医者ですらレントゲン検査をするのに、骨の本家・整形外科にレントゲン設備がないはずがない。つい、施設の狭さという偏見から、このクリニックを軽んじてしまったことを心の中で詫びる。

 

診察室に入っての第一声はこれだ。

「そのサンダル、僕も推奨してるんですよ」

わたしの履き古したビルケンシュトックを見つめながら、医師は嬉しそうにそう言った。むしろビルケンシュトックしか持っていないくらいほぼビルケンシュトックですよ、と相槌を打つ。

 

靴下を脱ぎ裸足になると患部を視診する医師。

「ここが腫れてるね、ここが痛いでしょう?」

「いえ、もう少し指のほうですね」

「でもここも痛いでしょう?」

「いえ、そこは別に・・・」

さっきからさかんに「痛いでしょう?」と示してくれる場所は、リスフラン関節より足首寄りの部分で、なんというかそれは筋肉です、とは言えなかった。医師の目から見ても「腫れている」という評価を下されたその盛り上がりは、もしかすると普通の人には備わっていない筋肉なのかもしれない。とにかくそこは痛くもなければ腫れてもいない。筋肉だ。

 

すぐさまレントゲン室へと送り込まれ、足の甲の真上と斜めの2カットを撮影。数分後、名前を呼ばれて診察室のドアを開ける。だいたいこの瞬間に、自分の怪我の具合がどの程度なのか分かるもの。医師がわたしと目を合わせない場合、無傷ではなかったということだ。

「えーーっと、ここですね」

画像をクリックして明るさを変えていく。すると中指に一本の白い線が見える。しかもハッキリと。

「ここにヒビが入ってますね。しばらく安静にしましょう」

なんと!まさかのヒビだったのか。指の付け根が痛いと思っていたが、指にヒビが入っているとは予想だにしなかった。しかしこれだけのヒビが入っているにもかかわらず、この程度の痛み?逆に痛くなさすぎて不安になる。すると医師は再び足に触れながらこう言った。

 

「でもここも痛いでしょう?こんなに腫れてるし」

 

(だからそこは筋肉・・・)

 

サムネイル by 希鳳

 

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