ラッシ・ノム?

Pocket

 

食欲不振でめっきりやせ細ってしまったわたしは、無理やりにでも胃袋に食べ物を詰め込むべく、正真正銘インド人が経営する人カレー店を訪れた。その名もGreat India(グレート・インディア)

しかし時刻は22時を過ぎており、持ち帰って自宅で食べるほうがゆっくりできるだろう・・ということで、初めてのカレー店で何種類かのカレーを見繕うことにした。

 

(ん・・アンチョビキャベツ)

わたしは、アンチョビで味付けされた食べ物が好きだ。大体なんでもアンチョビで和えれば美味くなるわけで、アンチョビとキャベツの相性が抜群なことくらい、文字を見た瞬間に分かる。

(アンチョビキュウリ・・・)

うむ、こっちも当然ながら美味いに決まっている。

(ブロッコリーとカシューナッツ炒めも、なかなか捨てがたいな)

あれこれ迷ったあげくに、3種類の一品料理が確定した。そして次は、いよいよメインのカレーの番だ。

 

(ビーフマッシュルームカレー・・いいね、うまそうだ)

意外や意外、わたしはマッシュルームが好物である。ホワイトマッシュルームは当然のことながら、シャキシャキのブラウンマッシュルームを生のまま齧るのが、最高に贅沢な食べ方だと自負している。

あぁ・・ビーフは少なくていいから、マッシュルームは大量に入れてもらいたい——。

 

そんなこんなで、ダルマサラにバターチキンカレーを追加した上で、ターメリックライスとラッシーを注文した。

念のため確認だが、先週患ったインフルエンザの影響で食欲がまったくないわたし。そのため少量でいいから、本場・インドのスパイスで衰弱した味覚と胃袋を刺激して、本来の食欲を取り戻そうと考えたわけだ。

それなのに、カレーの匂いを嗅ぐとついつい注文に熱が入ってしまい、結果的に3人分の食事を購入してしまった。

(・・・食欲が戻ったということで、まぁいいか)

 

一品料理は作り置きではなく、はじめから作ってくれるらしい。一つしかないガスコンロで小さなフライパンを駆使して、インド人と思しき店員がせっせと料理を作り上げていく。

とその時、ウーバーイーツの通知音が鳴った。ピロリロリン・・わたししかいない店内に独特の音色が響く。しかも立て続けに二件の注文が入ったではないか・・まさか、ここは人気店なのか?

 

それにしても、わたしの注文数が多いせいでなかなか出来上がらない・・と思っていたところ、よーく見るとウーバーイーツの注文を先に作っているではないか!

繰り返しになるが、ガスコンロは一つしかないため一品ずつしか完成しない。そして、ウーバーイーツの配達員が受け取りに来たら、すぐに手渡さなければならない・・ということは、必然的にわたしの優先順位が下がるわけだ。

 

そしてよくよく考えると、わたしが店に足を踏み入れた時点で、店員はすでになんらかの料理を作っていた。ということは、一つ目のウーバーイーツの後にわたしのオーダーが入り、さらにその後から二件の注文が入った流れとなる。

おまけに緊急性の高いウーバーイーツが優先されるため、わたしの料理は6品中2品しか完成していない状態。もしもこの後、再びウーバーイーツが入ったならば、わたしの帰宅はさらに遅くなるだろう。かといって、わたしの注文を先に作ってくれ・・とは言いにくい。

 

「ラッシ、ノム?」

 

わたしの心の内を見透かしたかのように、店員がそう尋ねてきた。うん、飲む——。

差し出されたラッシーをゴクゴクと飲み干すと、物欲しげな眼差しで店員を見つめた。すると店員は、大きなピッチャーにたっぷり入った水を、ドンッとわたしの目の前に置いた。

(なんだ、ラッシーじゃないのか・・・)

当たり前だが、ラッシーは売り物である。いくら客を待たせているからといって、ホイホイと売り物を振る舞うようでは経営者(?)失格。

・・いいんだ、水で十分である。

 

 

こうしてわたしは、3人分の料理が出来上がるまでの間、出されたピッチャーの水をグビグビと飲み干した。時間がかかればかかるほど大量の水が飲めるという、なんとも微妙なラッキーを堪能しながら——。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です