近代的な熊本市で、枯渇しかけた話

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あくまで個人的な話だが、整備された近代的な街並みを有する熊本市なのに、なぜか自動販売機で電子マネーが使用できない・・という、ちょっと不思議な体験をした。

もちろん、都内だってすべての自販機で電子マネーが使えるわけではないから、それが悪いとか遅れているとか批判しているわけではない。ただ、建物や道路が予想以上に前衛的であることや、コインランドリーが電子マネーで支払えるにもかかわらず、わたしが出会ったすべての自販機は現金オンリーだったのだ。

洗濯機が電子マネーでイケるのに、なぜ飲み物はダメなんだ——。

 

そしてこのわたし、ご存知のとおり現金など持ち合わせていない。最悪の場合、コンビニならば電子マネーが使えるので、飲み物くらいどうにかなるだろう・・と高を括っていたのが間違いだった。

宿泊先のホテルにも立派な自販機が設置されているし、周辺にも自販機は点在する。おまけに、熊本といえばTATORU(熊本市にある有名な柔術道場)・・ということで、出稽古に向かおうとしているわたしにとって「水分」が必要なのは言うまでもないが、どの自販機も飲み物を売ってくれないのだ。

(この自販機を売り切れにさせられるほどのカネが、ケータイの中には入っているというのに)

・・とはいえ、道場へ着くまでには飲み物を手に入れられるだろう。

 

 

何年ぶりかの車の運転に緊張しながらも、わたしの顔色はみるみる曇っていった。嘘だろ、コンビニがない——。

幹線道路は片道三車線の立派な道路。次々と現れる信号機は新しいし、道路脇の樹木もきちんと整備されている。それなのに、いつまで経ってもコンビニが現れないのだ。ちなみに、最もコンビニに近い存在・・といえばタイヤ館だろうか。この際、タイヤ館に入って自販機を確認してもよかったのだが、さすがに道場付近にも自販機はあるだろうから、寄り道せずに真っすぐ向かったのである。

 

「目的地に到着しました」

機械的な声でナビが到着を伝えた。そして、道場の入り口にある大きなな自販機の出迎えに目を細めながら、わたしはsuicaやPayPayのマークを探した——が、見当たらなかった。

 

・・マズい、これはマズいぞ。張り切って出稽古に来たはいいが、水分を失ってシワシワに干からびでもしたら事だ。ということは、ツバをためて飲み込む作戦か——。

そんな非現実的なアイディアを真剣に考えるほど、わたしは追い詰められていた。初めて訪れる道場で他人からカネを借りるなど、よほど図太い神経の持ち主でなければできないわけで、蚤(のみ)の心臓の持ち主であるわたしには無理な話だった。

(正直に言うべきか、あるいは水道水を飲むべきか・・・)

所属ジムならば、カツアゲまがいの方法で水を手に入れることもできるが、熊本でそれは不可能。おまけに、よそ者のわたしが品行方正を貫かなければ悪評が立つ恐れもある。やはり、どうにかして水を入手する方法を考えなければ——。

 

悶々とするわたしは、眉間にしわを寄せ険しい表情で地蔵のように立ち尽くしていた。だが、そんな"置き物"に向かってスタッフの女性が天使の笑顔でこう述べた。

「水ならタダですよ。その紙コップに名前を書いて、このペットボトルの水を注いで飲んでください」

それは今のわたしにとって、衝撃的な内容だった。たしかに、2リットルの透明なペットボトルが何本も並べてあるが、まさかそれを無料で飲めるとは、予想だにしなかったからだ。

(TATORU、素晴らしい道場だ・・・)

 

 

ということで、まさかのサービスにより水にありつけたわけだが、それにしてもなぜ電子マネー対応の自販機がない——少なくともわたしが出会った自販機は、百パーセントの確率で現金オンリーだった——のか、不思議でしょうがない。

市内すべての自販機を見回ったわけでもなんでもないので、たまたまなのだろうが・・おっと、なんか悪口に聞こえそうなので、正直な"熊本の印象"を伝えて終わりにしよう。

 

「熊本市というのは、美しい景観と近代的な建物が多く、道路も立派で整備されている。そして、自販機はダメでもコインランドリーは電子マネーが使えるという、素晴らしい街である」

 

Illustrated by 希鳳

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