ハンバーガー大解剖

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(・・も、問題ない。片っ端から食べ尽くせばどうにかなるはず)

わたしは、肉汁やらソースやらチーズやらがボタボタと滴るハンバーガーを両手で抱えながら、その対処に苦戦していた。

一応、耐水性の紙に包まれているのだが、ハンバーガーがデカすぎて包装紙からはみ出しているのだ。さらに、なるべくならば手を汚したくないという気持ちから、指先だけでハンバーガーをつまんでいるため、なおさら中身がズレてしまいとんでもない状態になっているのである。

 

このままでは、指の圧力により分割された具材が、包装紙からこぼれ落ちるのも時間の問題。そうなる前に、どうにかして成形しなければ——。

 

成形するとなれば、両手を犠牲にする必要がある。なぜなら、小手先の、いや、指先の技術ではどうにもならないほど、バンズも具材もズレまくっているからだ。

そして両手が油まみれになった場合、すぐさま洗浄しなければならない。つまり、店内に手洗い場と石鹸があるならば、我が両手を犠牲にしてでもズレたハンバーガーを立て直し、万全の状態で食べ直さなければ気が済まないのである。

 

ところが、店内を隅から隅まで見渡すも、手を洗う場所は見当たらない。代わりになりそうなものといえば、アルコール消毒液と紙ナプキンくらいだ。

(あんなものでは、ベトベトになった手を綺麗にするのは不可能だ・・・)

わたしのバッグの中には、こんな時のためにウェットティッシュを忍ばせてある。だがもうすでに指先は油まみれのため、ファスナーに触れることはできない。よって、どう転んでもこれ以上両手を汚すことはできないのである。

 

まるで崩壊寸前のジェンガのように、いや、指の圧力でバンズと具材をピンしているだけだから、もうすでに崩壊しているジェンガのようなハンバーガーを、必死に支える指が攣りそうになる。それでも少しずつ、包装紙から飛び出た部分を齧っては形を整えるわたしは、もはや引くに引けない状態となっていた。

上下に押しつぶされたバンズはペシャンコに潰れ、フワサクの歯ごたえが売りのブリオッシュが見るも無残な姿となっている。そして間に挟まるビーフパティと目玉焼きとスクランブルエッグは、見事なまでにズレているため、真ん中には薄っぺらく圧縮されたバンズしか残っていない。

 

そもそも、ハンバーガーというものはなぜこうも食べにくいのか。こんなにも分厚く作れば、どれだけ口が裂けていようが一口で食べるのは難しい。それを承知の上で、高級ハンバーガーはこれ見よがしに堆(うずたか)く具材を積み上げるのだから奇々怪々。

いっそのこと、おむすびのようにギュッと握りつぶして、バラバラにならないように密着させるべきではなかろうか。いや、それこそが本来あるべきハンバーガーの姿に違いない。

——よし、おまえたちを楽にしてやろう。

 

「はい、これ使いなよ」

渾身の力でハンバーガーを握りつぶした瞬間、友人がプラスティック製のフォークとスプーンを手渡してきた。どうやら、食べにくいハンバーガーを分解するべくカトラリーが備え付けてあり、それをわざわざ取りに行ってくれたのだ。

しかし、ハンバーガーを握りつぶした両手はドロドロのベトベト。フォークとスプーンを受け取ったはいいが、一瞬で油まみれとなり、柄の部分はツルツルになった。

こうなったら、もうどうでもいいわ——。

 

彼女があと1分早く持って来てくれれば・・などと親切な友人のせいにしながら、わたしはハンバーガーの残骸をフォークでつつきながら処理するのであった。

 

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