脆弱なニンゲンと鉄壁なアニメ対決

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アニメの良さは、「登場人物に色がついていない」という部分だと思う。

たとえ映画やドラマであっても、生身の人間による発言や行動というのは、どう切り離しても当人のリアルな影がちらついてしまうもの。ところが、アニメのキャラクターによる発言や行動ならば、どんなに反感を買う態度を取ろうが暴言を吐こうが、目くじら立てて怒る者はなく、むしろ笑って許せるのだから面白い。

 

生身の人間は、生き物であるがゆえに失敗したり調子に乗ったりする。そして「何度でもやり直せる」といいつつも、それは本人の気持ち的な部分の話であり、周囲あるいは世間的には過去の失敗を含めて「その人」という評価になるわけだ。

過去を消したり、他人の記憶を改ざんしたりできればいいが、そうもいかないのが現実社会というもの。よって、生きていればいるほど失敗と過ちの数も増加し、どんどん「色の濃い人物像」が出来上がっていくのである。

 

 

YouTubeでは、キャラクターを使って動画を作成しているユーチューバーも多い。

私の好きなチャンネルで、ネコがメインキャラクターとなり、クマとウサギ、そして実在するであろうニンゲンのイラストで構成されているものがある。音声はボイスチェンジャーを使って変えてあるが、あくまでアニメキャラが発信している設定なので、過激な思想や発言であっても嫌悪感なく受け入れられる、という特徴がある。

 

とくにこのチャンネルは、政治・宗教・社会に関する時事ネタをいじるのが上手いため、面白おかしく視聴しながらもマスメディアが報道しえない側面、あるいは「裏側」を知ることができるのだ。ちなみに、個人的には「これが真実だろうな」と思っている。

今のご時世、「見たいものを見る」「自らが選んだ手段で情報収集する」ということが可能なため、そのチャンネルを見たくない人間は見なければいい。そのため、中には職業的なアンチも存在するが、それでもほとんどのチャンネル登録者は、純粋に面白いと感じている「ファン」なのだと思われる。

 

しかしコメント欄というのは、わざと辛辣な言葉を残したりネガティブな発言でかき乱したりと、アンチが暗躍する場所でもある。その上で、このチャンネルに寄せられる多くのコメントが好意的であったり、動画の内容を支持するものであったりと、否定的な内容が非常に少ないことに驚かされるのだ。

 

動画の内容は、新型コロナや統一教会について、また、最近ではインボイス制度やハワイの山火事の件など、一般的には深く追及しにくいネタがほとんどであるにもかかわらず、「ネコ」というキャラクターのおかげで、突飛かつ刺激的な発言もさらりと受け入れられるのだ。

特に面白いのが「ネットワークビジネス」に関しての動画だ。実際にどこまでが事実なのかは不明だが、およそ作成者自らが説明会に参加していたり、近しい人間にネットワークビジネスの会員がいたりと、かなり突っ込んだ内容ゆえに驚きと学びが多い。

「あぁ、この光景見たことある!」と思わず目を輝かせてしまう勧誘の場面から、会員同士のミーティングの様子、また、「アップ」と呼ばれる先輩(上司)の自宅に呼ばれての出来事など、「なるほど!」の連発なのだ。

 

一般的に、ネットワークビジネスのようなMLMや宗教に関しては、発信者の意見や主張が支持される傾向にあるが、政治的あるいは社会的思想や行動については、アンチを含む反対意見が付き物。

ところが、この「ネコ」がナビゲートする一個人の主張に関しては、多くの人間に支持され共感を呼んでいるのである。

 

これが生身の人間だった場合、間違いなくこうはならないだろう。ニンゲンはなぜかニンゲンを敵視する性質を持っている。相手が言葉の通じない動物や、実在しないキャラクターならば寛容なくせに、この世に存在する人間相手ならば、姿を晒すことのないインターネットの隠れ蓑に乗じて、徹底的に殺しにかかるから滑稽だ。

なぜああも「生身の人間」に対して敵意を抱くのか。そしてアニメキャラならばなぜ、そこまで気持ちを高ぶらせることなく受け流せるのか——。

思うに、ニンゲンという不完全な生き物は攻撃するに値するが、アニメキャラという絶対的で不可侵な存在に対しては、攻撃の余地はなく無意味であることを理解しているからではなかろうか。

 

本来、心を持つニンゲンを攻撃し傷つけることなど、するべきではない。むしろキャラクターが身代わりとなって、それらのネガティブな攻撃を受けとめるほうが健全だろう。

ところが、攻撃を受けたニンゲンが傷つき疲弊する姿を画面越しに観察することで、一種の「達成感」によりにわかに満足するのだ。対面では会話一つ成立しない、臆病かつ脆弱で愚かなカスの分際にもかかわらず——。

 

・・まぁ、そこも含めてアニメの魅力は奥深いものがある、ということだ。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

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