ネックになるのは、賞味期限切れのカットスイカ(大)の存在

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なんというバッド、いやグッドタイミングで、果物がこんなにも集まってしまったのだろうか——。

眼下に広がる果物の山に歓喜しつつも、じわじわと滲み出る悔しさと焦りに、わたしは思わず地団太を踏んだのである。

 

 

昨夜、近所のスーパーで40%オフになっていたカットスイカ(大)を買い占めたわたしは、圧倒的な優越感に浸っていた。

閉店間際という時間的な問題もあるが、40%も値引きをするというのは、いかにカットスイカが不人気であるのかを表している。つまり、このスーパーを訪れる客の目は「ふしあな」なのだ。

なんといっても、ここまでコスパのいい果物はカットスイカ以外にはありえない。金額的にももちろんのこと、食べ終わった後に残る生ごみの少なさといったら、カットスイカに勝るものなどない。黒い種が数十粒散らばる程度で、他の果物と比べても明らかにエコだからだ。

 

そんなカットスイカ(大)に、値引きシールが貼られた上でこれ見よがしに大量に陳列されていたら、それは確保しなければなるまい。

そこで、スイカレスキュー隊の異名をとるわたしは、6個の売れ残ったカットスイカ(大)を買い物かごへと放り込んだ。

(今夜と明日の朝、うまくいけば明日の昼もスイカ三昧だ!)

 

 

「お届けものでーす」

翌朝、宅配業者の兄ちゃんが段ボール箱を持って部屋の前までやってきた。——桃だ。

長野県は桃の産地でもあり、幼い頃から桃が大好物であるわたしのために、父から白桃がどっさりと送られてきたのである。

 

まだ少し硬めの表面を撫でると、ビッシリと短い産毛が生えている。ここまでチクチクする手触りは珍しい、よほど元気な桃なのだろう。

とりあえず一つ、水で洗って皮ごとがぶりと齧りついた。

(うん、この硬さもまた白桃なり)

硬かろうがぬるかろうが桃は桃であり、キング・オブ・フルーツなのだ。そして中心に隠れる大きな種をしゃぶりつくすと、次の桃へと手を伸ばした、その時。

 

「お届け物でーす」

さっきとは別の宅配業者がやってきた。こちらも大きな段ボール箱を抱えている。——梨だ。

そういえば数日前に、友人から梨を送った旨の連絡があったことを思い出す。「地元の梨なんだけど、とても美味しいからぜひ食べてもらたくて」などという殊勝な配慮とともに、デカくて美味そうな梨が届いたのだ。

 

一玉が大きくて見た目も形も美しい梨。その中から一つを取り出すと、水で洗ってそのまま齧りついた。

(おぉ、なんというジューシーさ!)

芯のキワまで糖度十分の果肉を目の当たりしたわたしは、驚きを隠せなかった。それでいて果汁たっぷりの一玉は、梨にありがちな「無味な水分」が一滴たりとも含まれていない。さらに、どこをどう齧っても芳醇な甘みたっぷりの汁があふれ出てくるわけで、これはまぎれもなく「上物」に違いない。

 

どちらも旬な果物である桃と梨、しかもいずれも上等な品である。それらが目の前にゴロゴロと転がっているわけで、こんな贅沢で至福な状況が年に何度も訪れることはない。

・・・そんなことは百も承知である。

だが冷蔵庫の中には、昨晩「大人買い」したカットスイカ(大)が、あと4つも残っているのだ。夜中に2パック食べて、起床とともにスイカで喉と胃袋を潤そうと思っていたのだが、その前に桃と梨が届いてしまったのである。

なんという最高で最悪のタイミング——。

 

冷蔵庫を開けると、ギュウギュウ詰めになったカットスイカ(大)を取り出した。そもそも、なぜこれが40%引きなのかといえば、賞味期限が昨晩までだからだ。つまり、現時点での優先順位はこのスイカなのである。

 

少しでも早くあの桃と梨にかぶりつくためには、まずはスイカを片付けなければならない。さらに厄介なことに、いずれも生ものであるがゆえに「待った!」はきかない。

そして、新鮮で上等な桃と梨を最高の状態で満喫するためにも、賞味期限切れのカットスイカ(大)を今すぐ胃袋へと流し込まなければ間に合わない。

にもかかわらず、無情にも友人との待ち合わせの時刻が迫る——。

 

(こんな悠長なことをしている暇などない。しかし、この大量のスイカをどうにかしなければ、桃と梨へ手を伸ばすことができない。ところが、今すぐ家を出なければ待ち合わせに遅刻してしまうわけで、スイカを食う余裕など一秒もない。だが、果物たちのことを思うと、少しでも早く片付けなければ手遅れになる。あぁ、いったいどうすればいいのだ・・・)

 

いくら考えても答えの出ない、大きな悩みに押しつぶされそうになりながらも、わたしは必死にカットスイカ(大)を口へと放り込んだ。

果物の劣化は止まらない。友人には申し訳ないが、スイカを食べきるまでわたしはここを動くことができないのだ。

 

——どうか、少しだけ遅刻をするわたしを、許しておくれ。

 

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