地下鉄南北線の飯田橋駅ホームには、大塚製薬とアサヒ飲料の自動販売機が設置されている。
いずれも自販機としては比較的レアなメーカーであるが、個人的には好みのドリンクが多いのでお気に入りの二社なのだ。
(なににしようかな・・)
喉を潤そうと、二台の自販機の前をウロウロするわたし。なんせ、わたしの興味をそそる商品が多すぎて、一発では決められないのである。
王道のポカリスエットしかり、甘さ控えめのポカリであるイオンウォーターも捨てがたい。さらに、緑色のラベルが目を引くボディメンテも味がいい。
あとは、熱中症のお供である経口補水液OS-1や、アイスボックスにぶっかけて食べるとめちゃくちゃ美味なオロナミンC、その昔にやたらと飲んでいたアミノバリューなどなど、大塚製薬ならではの飲み物がズラリと並んでいるのだ。
おまけに、カロリーメイト(ブロック)とソイジョイまでセットされているので、小腹が減ったらこの自販機一つで解決できるときた。
一方、アサヒ飲料の自販機で目を引くのは、フルーツと乳飲料の豊富さである。
フルーツといえばウェルチというくらい、濃厚な風味のウェルチ・濃い葡萄は大好物である。そして、ラベルが爽やかなウェルチ・フルーツウォータレモンも、見ているだけで唾液が湧き上がってくる。
さらに、三ツ矢100%ホワイトグレープミックスは、炭酸が苦手なわたしでもゴクゴク飲めるほど、マスカット風の味わいが高級感を醸し出す炭酸飲料だ。
そして、アサヒ飲料といえばやはりカルピスは外せない。
カルピス THE RICHの濃厚さといったら、まるで原液を飲んでいるかのようなまろやかさがクセになる逸品である。
その仲間である、青のラベルが特徴的な睡眠・腸活ケアのPLUSカルピスに、赤ラベルの免疫サポートは、いずれも200mlと少量のためグビグビ一気飲みできる手軽さがウリ。
おまけに、守る働く乳酸菌やアミールなど、乳酸菌系のドリンクもアサヒを代表するドリンクとしての知名度が高い。
・・このように、あれこれ目移りするような豪華ラインナップのせいで、自販機の前を何度も行ったり来たりするわたし。
するとある時、背後にふと人の気配を感じた。
(電車もまだ来ないし、譲るか・・)
一歩下がると、そこにはスーツ姿の女性が立っていた。わたしが「どーぞどーぞ」と手で合図を送ると、その女性はこう返してきた。
「私もまだ決まってないので、どーぞゆっくり選んでください」
——これは困った。わたしもまだ決めかねているわけで、焦って変な商品を押してしまったら後悔するではないか。
そこでわたしは、二台の自販機を指さしながらこう答えた。
「実はわたしも迷ってて。なんなら、あっちとこっちで迷ってるんで、わたしのほうが決めるの遅いですよ」
すると彼女は笑いながら、
「えぇー、どれとどれで迷ってるんですか?」
と尋ねてきた。
見ず知らずの我々は、自販機の前であれこれ指さしながら、それぞれ好みのドリンクについて心境を吐露した。
不思議なもので、口にすると脳内が整理されるのだろうか、当初は10種類ほどの商品で迷っていたが、しばらくすると3種類に絞られてきたのだ。
「じゃあ、私はこれにしますね」
いよいよ彼女がアサヒの自販機のボタンに指を伸ばした。いったい何を選ぶのだろうか。もしもわたしとかぶっていたら、それこそ運命なのではなかろうか——。
ガタンッ
・・・落ちてきたのはなんと、颯(そう)だった。カルピスでもウェルチでもドデカミンストロングでもなく、緑茶を選んだのだ!
(緑茶なんて一種類しかないのに、彼女はなにを悩んでいたのだろうか・・)
それを見たわたしは、初対面でありもう二度と会うこともないであろう女性に向かって、「なんで緑茶なん!?」と突っ込んでしまった。
女性はエヘヘと笑いながら、「で、なににするんですか?」とわたしを煽ってきた。可愛い顔してなかなかやるな——。
そしてわたしは、ウェルチ・フルーツウォーターレモンのボタンを勢いよく押した。色々と考えた末に、喉の渇きを潤すのにちょうどいい量で、ゴクゴク飲み干せる爽やかなテイストを選んだのだ。
「ほほー、それですか!」
彼女は嬉しそうに笑った。
こうして我々は、熟考の末に各々ドリンクを購入すると、それぞれ逆の電車に乗り込んだ。
もう二度と会うこともないだろうが、つまらない日常にちょっとした笑いを与えてくれた彼女に、礼を言いたい気分である。
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