海外のスタバをサテライトオフィスと位置付け、世界を股にかけて暗躍するわたしは、国によって名前を使い分けながらスパイ活動に勤しんでいる。
海外でスタバを利用すると誰もが経験することだが、ドリンクが出来上がると「なまえ」で呼ばれる。日本ではモバイルオーダーならばニックネームの登録ができるが、通常店舗では注文したドリンクがコールされたり、レシートを確認しながら手渡されたりするのが一般的。
だが海外は基本的に「なまえ」で管理される。
その昔、どこかの空港のスタバで初めてコーヒーを注文したとき、
「なまえは?」
と聞かれた衝撃はいまだに忘れない。――なぜわたしの名前を聞くのだ?なにか怪しい雰囲気でも感じ取たのか?
それでも素直に名前を答える。だが日本人の名前など馴染がないだろう、何度かそれらしき名前をつぶやいた後、
「スペルは?」
と尋ねられた。わたしが伝えるスペルを紙カップにマジックペンでサラサラ書き、バリスタ(ラテを作るひと)へ手渡す。そこで初めて、自分の名前を紙カップに書くことで、出来上がったら名前を呼ばれる仕組みなのだと理解した。
それでもやはり不安を覚えるため、わたしの名前が書かれた紙カップを目で追いつつ、受け取りカウンターからのぞき込むようにして様子をうかがう。
「リタ!」
ちょっと惜しいが、間違いなくわたしの紙カップを掲げながら呼んでいる。そこでわたしは手を挙げて、出来上がったラテを受け取る。
改めて名前を見ると、やはり「RITA」と書かれている。つまりコールされた名前は正しかったのだ。
ちなみに本名の「リカ(Rica)」ではなく「リタ(Rita)」と呼ばれることは意外と多い。
過去に飛行機で、並びの席のメキシコ人女性から名前を聞かれて「Rica」と答え、その場では向こうも「Rica」と呼んでくれていたが、帰国後に送られてきたインスタのメッセージでは「Rita」と書かれていた。
インスタにはそれこそRICA URABEとフルネームがローマ字で記載されているのに、わざわざ「Rita」とアレンジして送ってくるとは。
そしてその後もやり取りは続いているが、いまだに
「Hi Rita, I miss you!!」
と、ちょっと違った名前で呼ばれている。
これをきっかけに、わたしはあえて「Rita」を使ってみたり、もしくは絶対に間違われない名前を使うことにした。たとえば「Beth(ベス)」や「Diana(ダイアナ)」などだ。BethはElizabeth(エリザベス)の愛称、Dianaは文字通りダイアナ。イギリス王室ゆかりの名前ならば、世界中どこでも間違いなく伝わる。スペルを聞かれたこともない。
ちなみにスペイン語圏では、あえて巻き舌で「Rica」を使うようにしている。その理由は、スペイン語でRicaは英語でいうところのRichを意味し、「金持ち」や「美味い」といったイイ意味だからだ。
決して金持ちではないが、
「名前が金持ちでうらやましい!」
とアルゼンチン人に羨望のまなざしで言われたときは、わたしもいつかは金持ちになることが約束されている、ということだろうと反論はしなかった。
日本人の名前は外国人にとっては発音が難しいため、自己紹介でも聞き直されることが多い。とくにRではじまるわたしの名前は、聞き慣れない上にRが脱落して「ウィカ」と発音されることがある。
「リタ」に「ウィカ」、惜しいが違う。
そこであえてRを「巻き舌」で発音すると、英語圏の人でもちゃんとRとして認識してくれることが分かった。さらに世界中でマスクがデフォルトとなった今は、なおさら紛らわしい発音はハッキリ伝える必要がある。
くちびるや舌といった口元の動きが、いかにコミュニケーションの助けとなっていたかが、コロナのおかげで知ることができた。
とりあえず、大声で連呼されて注目を集めた「あの名前」をこえるネーミングを考えようと思う。
「Cookie Monster, Cookie Monster!!」
(クッキーモンスター、クッキーモンスター!!)
サムネイル by 希鳳
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