(目の前で電話をかけているのに、通じない・・なんてことがあるのか)
日本に居ながらにして、まさか「中国」を身近に感じることになるとは、もはや驚きを通り越して虚無感を覚えるのであった。
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先日、群馬県で開催された柔術の国際試合に参加した二人の女性——しかも、青帯と白帯という”若い帯”であるにもかかわらず、たった二人で中国からやって来たという彼女らが、わたしの所属するトライフォース柔術アカデミーへ出稽古に来てくれた。
練習にて爽やかな汗をかいた後、出稽古の恒例行事である”SNS交換”の申し出を受けたわたしは、彼女らが使っているメディアの確認をした。すると、いくつかの聞き慣れない名前が挙がったが、いずれもわたしは使っていないものであったため、ならば・・と逆にこちらのSNSを伝えたところ、「どれもやってない」と残念そうに首を横に振るではないか。
(あぁ、中国ではダメなのか。FacebookにInstagram、LINE、そしてXの辺りは・・)
それでも、「どうにかして連絡先を交換したい」と模索する彼女らは、わたしが使っているアプリを入れるべく、App Store(的なサイト)からインスタグラムをダウンロードし始めた。
ところが、途中まではサクサク進むものの、その先がどうやっても阻止される模様。何度やっても同じメッセージ——とはいえ中国語なので読めないが、おそらく「このアプリは使用できません」的なメッセージが出ているのだろう。
ここでもまた「見えない敵」に阻まれたことで、残念そうに肩を落とす彼女らに向かってわたしは一つの提案をした。それは「わたしのスマホから彼女らのスマホへ電話をかけること」だった。
実際には、電話番号からショートメッセージを送ればよかったのだが、なぜかメッセージの送信ができなかったため、とりあえず電話をかけてみよう・・ということになったのだ。
そして、ここで冒頭へと戻る——目の前で本人宛に電話をかけているにもかかわらず、肝心のスマホはうんともすんとも言わない。それどころか、端末の向こうでは中国語の自動音声が流れているではないか。
何を言っているのか分からないので、彼女らの耳元へスマホを持っていくと、やはり渋い顔で首を振る二人。要するに、中国当局により着信が拒否されている・・ということなのだろう。
電話番号を知っていても、その人へ着信を残すことすらできない——そんな理不尽な社会が存在するだなんて、今の今まで考えたことすらなかった。というか、中国のネット規制が厳しいことは承知していたが、それはあくまで「インターネットだから」規制できるのだと勝手に思い込んでいたのだ。
ところが、電話ですらこのようにコントロールできるのであれば、通信手段などあってないようなもの。電話もダメ、ショートメッセージもダメ、ソーシャルメディアもダメ・・残された手段は、まさかのメール?!
(いや、そもそもGoogleが提供するサービスは中国全土でブロックされているはずだから、そうなるとGmailは無理だ・・)
ちなみにちょっと面白かったのは、インスタグラムをインストールする際に、ローミングによるキャリアの電波を使うと早々に弾かれるところを、Wi-Fiや日本人所有のスマホでのテザリングを使うと、ある程度のところまで進める・・という事実だった。
とはいえ、どのみち最後までたどり着くことができないのであれば、下手な期待などさせずに初っ端でノックアウトのほうがマシかもしれない。そのくらい、彼女たちが一喜一憂する姿はなんとも切なく映るのであった。
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というわけで、最終的にどのような連絡手段を確立したのかというと、わたしがWeChatをインストールすることで決着となった。
WeChatといえば、泣く子も黙る中国の大手インターネット企業「テンセント」のスーパーアプリ。全世界で10億人以上が使用しているとのことだが、まぁそのほとんどは中国人だろう。
そんなWeChatの特徴としては、メッセージのみならずSNSや決済機能が搭載されていることだが、個人的に最も利便性を感じたのは「タップ一つで翻訳できること」だった。
イメージとしては、LINEなりMessengerなりのチャット画面をタップすると、それだけで自身が選択する言語へ変換される感じ。そのため、相手の言語を気にすることなくメッセージの送受信が可能——何語であってもタップ一つで翻訳できるため、互いに母国語でやり取りできる・・という、ストレスフリーなコミュニケーションが実現するのである。
(こういう抜け目のなさ・・というか、なんでも便利に取り込んでしまう強気な姿勢が、いい意味で中国の恐ろしいところだよな)
今のところ、たった二人しかいないわたしのWeChatメンバーだが、外国人とやり取りするには都合のいいメディアであるため、この先のメンバー増加に期待したい。




















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