湾岸ミックスナッツ  URABE/著

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口寂しい夜中のお供といえば、言わずもがなミックスナッツだ。健康志向の奴らは無塩ナッツを選びがちだが、あんなの気休めだ。どうせチビチビナッツをかじるなら、思い切って好みの味を買った方が精神衛生上良い。過酷な減量をともなう、プロ格闘家の試合前ならばさておき、塩抜きする前にもっと減らせる脂肪や水分があるだろう!と突っ込みたくなる、ゆるゆるボディが無塩ナッツを小脇に抱えて貪り食う姿には反吐が出る。

とはいえ、他人の努力を否定するのはよくない。美味くもない無塩ナッツでせいぜい頑張ってくれ。

 

ちなみに、オレのお気に入りは「お酒をたしなむ罪なおつまみ」シリーズだ。クイーンズ伊勢丹で売られているのだが、「燻製」と「黒胡椒」で毎回悩む。燻製の方にはキューブ型の乾燥チーズと、ねじねじのパスタスナックが入っており、これがまたやめられない止まらないクセモノなのだ。

しかしどうせなら、オール木の実のほうが贅沢だし健康的だ。よし、今回は「黒胡椒」にしよう――。

ということで、オレはいま夜中に一人で黒胡椒がたっぷりかかったミックスナッツを食べている。

 

ナッツは5種類入っており、オレの好物は「ジャイアントコーン」一択。ジャイアントコーンを4粒食べたら、お口直しにアーモンドをかじるのがルーティン。まるで、しゃぶしゃぶのタレを「ポン酢、ポン酢、ポン酢、ゴマ」というリズムで繰り返すのに似ている。

このジャイアントコーンは本当に豆なのだろうか。揚げてあるからか、明らかにスナックのオーラが漂う。そんなジャイアントコーンの謎に迫るべく、共立食品のジャイアントコーンのサイトを覗いてみた。

 

なんとこのジャイアントコーン、「コーン」と呼ばれるだけあり、ナッツではなくトウモロコシだった。さらに生産地は、ペルー中南部の標高2,900メートル地点にある「ウルバンバ村」というところで、世界中どこを探してもここでしか育たないのだそう。おまけに遺伝子組換えができない珍しい植物とのこと。

通常のトウモロコシは一周16粒の粒が実るが、ジャイアントコーンは一周8粒しか実が付いていない。つまり、皮の外から見た大きさは普通のトウモロコシと変わらず、粒の大きさだけが違うのだ。そして驚くべきことに、ウルバンバ村以外の土地でジャイアントコーンを植えても、普通のトウモロコシしとして育ってしまうのだそう。

このように、とんでもない「奇跡の粒ぞろい」こそがジャイアントコーンといえるのだ。

 

南米は何度か訪れたことがあるが、ペルーは未踏の地。是非ともジャイアントコーン畑をウロウロし、疲れたらそこで昼寝でもしてみたい――。そんな空想にふけりながら、オレはジャイアントコーンだけを選んでは口へと放り込んだ。

 

だがしばらくすると、他の奴らに申し訳ない気持ちが湧いてきた。オレはジャイアントコーンだけで一向に構わない。しかしそれでは残された奴らが気の毒だ。まったくお呼びでないにもかかわらず、ミックスナッツという商品名ゆえにジャイアントコーンの引き立て役として同じ袋に詰められているのだから。

お前らにだってプライドってやつがあるだろう。とくにオマエ、マカダミアナッツよ。オマエはかつてハワイ土産の代表格として一世を風靡していたかもしれないが、正直、たいして美味くはない。むしろオレはいつもオマエを「カサ増しの存在」として邪険に扱ってきた。チョコレートが食べたいのに、オマエが真ん中でかなりのハバを効かせてるせいで、オマエの味しか舌に残らない苛立ちを味わってきたからな。

そしてクルミ。決して嫌いなわけではないが、残念ながらキミを単体で食べたいとは思わないのだよ。どことなく甘ったるい油っぽさが口に残るクルミは、大量には食べられない。クッキーやサラダにまぶしてある程度ならば問題ないが、ダイレクトにポリポリいくものではない。

最後にカシューナッツ。勾玉(まがたま)か!と突っ込みたくなるそのフォルム。しかしこいつもマカダミアナッツと似たような、不甲斐ない歯ごたえでどうも好けない。ナッツならナッツらしくジャイアントコーンのようなソリッド感を出してみろ!

 

このように、お口直しのアーモンド以外はどれも不要な存在なのだ。べつにミックスナッツなんて名前にしなくてもいい、ジャイアントコーンモンド、とかで十分だ。

 

そんなことを考えながら、ジャイアントコーンとアーモンドの消えた、マカダミアカシュークルミの入った袋をそっと丸め、見えないところへ追いやった。

 

(さて、寝るか)

 

(了)

 

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