日本において労働者は「時間」で価値を決められている。
遡ること70年超、労働基準法という法律ができたことが発端。
そのなかで、
・1日8時間、週40時間の労働時間
・時間外労働(残業)、深夜労働について25%の割増賃金
・休日労働について35%の割増賃金
と決められている。
どんな仕事だろうが「時間」が基準になっている。
そして面倒なことに、残業をする場合は事前に「労使協定」を締結し、労働基準監督署へ届出なければならない。
「残業代払ってるんだからいいでしょ」
会社側の言い分としてよく聞くセリフだ。
いいえ、ダメなんです。
残業代を払うこととは別に、残業させる場合の条件について合意と届出が必要なのだ。
これは休日労働についても同じで、残業や休日労働をさせる理由と時間、回数(上限)を明らかにしなければならない。
とはいえ、残業の可能性なんてものはどの業種・職種にもあるため、
「日常的な繁忙、顧客対応など」
というようなザックリとした理由で良いし、それ以外の理由でも構わない。
よって特段難しい内容ではない。
残業時間も、月45時間・年360時間(一日の上限に定めはない)が上限のため、この範囲内で設定すれば良い。
近ごろ、個々の能力はそれぞれなのに労働時間でスパッと区切られることに、違和感を覚える人が増えてきた。
そりゃそうだ。
70年以上前のソーシャルダンピングのテコ入れの一環で、GHQに作らされたルールが令和の現在にフィットするはずがない。
労働者の立場が弱い、など今の社会では通用しないだろう。
むしろ好き勝手し放題、自由な労働環境が出来上がった。
話が反れたが、残業や休日労働についての条件が書かれたものを「36協定」と呼ぶ。
この36協定を締結するには、会社の代表と労働者の代表とで記名押印する必要がある。
会社の代表は社長で問題ないが、労働者の代表を選ぶ方法がめんどくさい。
ちなみに、労働者の代表を会社が指名してはならない。
「●●さん名前書いといて」
これはダメだ。
理由は、社長からの指名=経営者サイドの人間ということらしい。
(現実的にそんなわけないが)
そのため、労働者同士で話し合ったり、労働者自らが立候補したり、なんらかの民主的な方法で労働者の代表を決める必要がある。
36協定は意外と細かい。
書面には「代表労働者の選出方法」を記入する欄まである。
もし選出方法に不正があるとその36協定は無効となり、その間の残業や休日労働は労働基準法違反となるのだ。
労働基準監督署の臨検(実地調査)の際、この36協定を見せつけながら、
「代表労働者に名前のある方はどなたですか?」
と本人を呼び出す。
そして会社側が口出しできない状況下で、
「どのようにして、あなたがここに名前を書くに至ったのか」
を確認されることがある。
「社長に言われたから書きました」
これで一発アウトだ。
しかし、こんなことは社労士ならば誰もが心得ていることなので、このようなお粗末な失態でクライアントとトラブルになることはない。
ところが、
懲戒処分を下されたとある社労士の「懲戒理由」に目を見張った。
「36協定の代表労働者の選出方法の確認を怠ったため」
これはつまり、社長に対して
「この●●さん、民主的な手続きによって選びましたか?」
と確認をしなかったため、懲戒処分になったということだ。
私が36協定をクライアントへ指示する際には、選出方法には気を付けてくださいね、と一言添えてメールをしている。
しかし、それでは足りないということだ。
事前に注意喚起をしても、再確認しなければ懲戒処分ーー
私見だが、この社労士は別件で違反やタレコミがあった可能性もあるため、この僅かな一点のみで判断されたとは思えない。
とはいえ、このプラクティスができてしまった以上は、社労士として身を引き締めなければならないわけだ。
先日、顧問先の社長との会話で、
「労働者の代表を社長が指名すると、私が職を失うんですよ」
と言うと、
「なるほど、僕が先生のキャリアを左右できるんだね」
社長はニヤリと笑った。
ーー私の人生を左右する支配者は、わりと近くに潜んでいるのかもしれない
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