圧倒的に正しい、スイカの食べ方。

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「割り箸でスイカを刺しちゃダメだよ、先端がもっと細い…っていうか薄いものでないと」

友人からダメ出しをされた。

話の流れとしては、ここ最近毎日カットスイカを食べているのだが、弁当についてきた割り箸をスイカに突き刺して食べていたところ、想像以上に果汁が飛び散り、自身やテーブル、延いてはフローリングやソファまでベタベタになる・・・という近況報告への返事だった。

たしかに、フォークよりも断面積の大きな割り箸をスイカにグサッと突き刺せば、それなりの量の果汁が飛び散ることになる。だが果たしてどの程度の果汁が飛散するのか想像もつかないヒトは、ぜひ一度ためしてもらいたい。驚くほどのしぶきと共にテーブルが水玉模様に染まることだろう。

 

わたしがこの事実に気が付いたのは、テーブルが汚れたこともきっかけではあるが、タンクトップと短パンでスイカを食べたことで、首やら肩やら腕やら太ももやら、もちろん顔面までベタベタになったからである。

(めちゃくちゃ果汁が飛んでるじゃないか!)

ソファに座りテーブルの上にあるスイカを割り箸で突き刺して食べると、予想以上に果汁が飛び散ることを知ったわたしは、「ならば自分自身の体を使って、果汁の飛散を阻止しよう」と考えた。そこで、フローリングにあぐらをかくと、顔面と胸、そして胸で果汁を受け止めるようにして食べ始めた。

 

先ほどよりもハッキリと、わたしの肌がスイカの果汁を感じている。つまり、これほどの大量な飛沫にすら気付かず、のうのうとスイカを食べていたというわけだ。

さらに、ポストに投函される「マンション買いませんか?」「駐車場借りませんか?」のチラシを有効活用するべく、テーブル一面に並べると端っこを折り曲げて土手を作った。

(これで完璧だ——)

果汁を背後に飛ばさないようにやや前傾姿勢でバリケードを作ると、わたしは再びスイカにかじりついた。プッ、コロコロ。プッ、コロコロ・・・。そう、スイカの種をプッと吹き出しても、敷き詰めたチラシからはみ出さない工夫を凝らしたのである。お手製の土手にぶつかった種は、あえなくその場で勢いを失った。

 

しかし稀に、勢い余って床へダイブするはぐれ者も存在する。そのたびに指でつまんで種を拾うのだが、フローリングに落ちたスイカの種というのは、思った以上につまみにくい。そのため、ツルツルと逃げる種を追いかけ回すことで、床に果汁を塗りたくることになるのだ。

(・・クソッ、拭き掃除しなきゃならない)

せっかく楽しくスイカを食べていたのに、胸より上は果汁でベタベタになるわ、床に転がる種のせいで床拭きをしなきゃならないわ、食べる喜び以上に面倒な手間が発生していることに腹が立ってきた。

かといって、キッチンのシンクに顔を突っ込んでスイカにかぶりつく気にもなれない。食事というのは雰囲気が重要であるため、殺風景な銀色のシンクを眺めながら食べたところで、スイカの美味さは半減するだろう。さらには、ただ単に「汚れない食べ方」をするというのは、スイカに対して失礼といえる。どうにかして美味しい食べ方ができないものだろうか——。

 

その瞬間、わたしは閃いた。手前みそだが、これは天才的なアイデアである。

 

こうして全裸になったわたしは、両手にスイカを抱えて風呂へと向かった。ここならば、どれほど果汁が飛び散ろうが問題はない。顔や腕がベタベタになろうが、湯船につかれば一瞬でキレイになるからだ。さらにソファーでは実現できない食べ方、すなわち「ふんぞり返ってスイカを満喫すること」も、バスタブならば可能。

そもそも風呂ギライのわたしが、これを機に風呂へ入るようになるかもしれない。存分にスイカを貪りつつ、身体の清潔も保持できるというわけで、一石二鳥以外の何物でもない。

 

 

わたしは今日、スイカの汁に悩まされることなくスイカを堪能できるようになった。明日からは心置きなく、スイカと暮らすことができる。

 

Illustrated by 希鳳

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