マックがバズってる

「マックがバズってる」

わたしは夢の中でこの言葉を聞いた。

マックがバズる——つまり、マクドナルドの新商品か何かが、あまりの美味さでバズったということか。もしくは異物混入や食材の偽装など、喜ばしくない事態が発覚したことでバズってしまったのか。

いずれにせよ、＂マックがバズっている＂という噂をまだ耳にしていないわたしは、いったい何が起きているのか気になった。だが、眠気を振り切ってまで真相を知りたいとも思えず、まぶたはそのままに妄想を膨らませた。

（そういえば、そこら辺に相方がいる。マックがバズってる・・と発したのは、奴ではないか？）

よくよく考えると、その声は相方のものだった。どうやら奴がデカい声で独り言をつぶやいたのだ。

思ったことをすぐ口にする傾向の相方が、なにかを見ながら「マックがバズってる」と言ったわけだが、よくよく耳を澄ますとかすかに音楽が聞こえてくる——それはRIZINのテーマソングだった。

格闘技の素人でありながらも、RIZINだけは楽しみにしている奴が、RIZINのテーマソングにのせて「マックがバズってる」と発したということは、マックという外国人選手がとんでもない勝ち方をした・・ということかもしれない。

あるいは「マックがパスってる」と言ったのかもしれない。パスる・・とは相手のガードをパスして、自分が良いポジションになることを意味するので、バックボーンに柔術がある外国人選手・マックが、見事なパスガードを披露した可能性もある。

（・・ていうか、マックって誰だ？）

かくいうわたしもさほど格闘技に詳しいわけではないので、初参戦の外国人選手がいたならば、顔も名前も経歴も知らないだろう。しかも先週の土曜日に＂RIZIN LANDMARK 8 in SAGA＂が開催されたばかりであり、可能性としてはかなり高いといえる。

「ヤバい、マックがバズってる・・」

今度はハッキリと、相方の声で同じセリフが聞こえてきた。しかし「ヤバい」という割には大して焦っているようには感じない。むしろ棒読みでセリフを読んでいるかのような——。

（んん、ということはアイツのパソコンのことか？）

奴はマックブックを使用しているため、その「マック」関係でなにかがバズったのかもしれない。マックブックの新商品が出たのだろうか？でもそれがバズってなぜ「ヤバい」のだろうか。

ちなみに、この時点でもまだ寝ぼけ半分のわたしは、何を思ったのか

「アレクサやオッケーグーグルみたいな、マック特有の＂ウェイクワード＂なのかもしれない」

と考えた。ウェイクワードとは、音声アシスタントを起動させるための特定の言葉のこと。そしてマックブックには、なにか特別な音声アシスタントが搭載されていて、そいつを呼び出すための呪文が「マックがバズってる」なのかもしれない・・と。

色々な可能性を想像しながらも、どれもしっくりこないことに悶々とするわたしは、それでもずっと流れているRIZINのテーマソングが逆に気になって仕方がない。

（いったいなんなんだ。マックがバズるって、どういう意味なんだ？！）

ほぼ覚醒状態のわたしだが、イライラを抑えてなんとかまぶたを閉じ続けた。すると突如、新たな展開を迎えた。なんと、相方が自身の娘に電話をかけたのである。

「もしもし、なんかマックがバズっちゃったんだけど・・・」

寝ているわたしに気を使ってか、小声で娘と会話をする相方。しかもスマホをスピーカーにしているため、その問いかけに対する娘の返事がバッチリ聞こえてしまったのだ。

「え？バズっ・・・あぁ、バグったのね」

バカにするでもなく、慣れた口調でサバサバと答える娘の声を聞いて、わたしは思わず噴き出した。せっかく睡眠を維持する努力を続けてきたのに、その一言ですべて台無しである。

どうやら、相方のマックブックから勝手にRIZINのテーマソングが流れ始めて、どうやっても止められかった様子。おまけに、シャットダウンしたくてもアイコンが消えてしまい、それなのに強制終了の仕方も分からずで、途方に暮れていたのだそう。

だからあんなにもフラットな声で「マックがバズってる」と呪文を唱えていたのだ。

そして奴の十八番である「言い間違い」が炸裂したため、「バグる」が「バズる」になってしまったわけだ。

＊

それにしても、笑ってしまうと目は覚めるもの。朝が弱い人は、芸人でも素人でも＂鉄板ネタ＂をアラームにセットしておくと、快適な寝覚めが約束されるのかもしれない。