わたしは根っからの性悪であり、誰でもいいからとにかく意地悪をしたくてしょうがない。かといって、危害を加えたり精神的に追い込んだりしたいわけではなく、いわゆる「小学生の男子が、気になる女子にちょっかいを出す」という程度の、ちょっとした嫌がらせ・・言い換えれば”幼稚な自己満足の衝動”に駆られるのだ。
そして今日、大したことではないにもかかわらず、ある意味壮大なスペクタクルの「嫌がらせ」を思いついた。それは何かというと、自分には有名ブランドのコーヒーとボリューム満点の高級ケーキを用意し、相手には安価なコーヒーとちっぽけな茶菓子を与えて、何食わぬ顔でお茶会を開く——というものだ。
この発想は、わたしの得意ジャンルである「転生悪女・悪役令嬢モノ」からヒント得た。いかんせん貴族の令嬢は性根が腐っているため、平民が同じ席につくことを嫌う。そして、ことあるごとに嫌がらせをするのがお決まり。たとえば、平民の紅茶に目薬を入れて苦くしてみたり、茶菓子の間に虫を忍ばせてみたり。
それでも、身分の差がすべてを支配する世界において、平民はグッと堪えてその茶を啜り、菓子を頬張らなければならないのだ。そんな惨めな平民を見下しながら、悪役令嬢は声高らかに嘲笑するのである。
これに似たシチュエーションを再現しようと考えたわたしは、すぐさま行きつけのチーズケーキ店へと向かった。
日本における”バスクチーズケーキのメッカ”たるGAZTA(ガスタ)のチーズケーキは、味といい香りといい舌ざわりといいボリュームといい、チーズケーキマニアのわたしを十分に満足させるクオリティーとポテンシャルを兼ね備えている。当然ながらお値段もそれなりにするため、手土産としては最高の一品なわけだが、そんなガスタの「クリスマスバージョンのチーズケーキ」を自分用に、そして一口サイズの「チキチーズケーキ」を友人用に購入した。
(フフフ・・この差はデカい。この可愛らしいちっちゃなチキチーズケーキを受け取った友人は、さぞかし唖然とするだろう。とはいえ、他人からもらった手土産にケチをつけることもできないため、引きつった笑顔で礼を言うに違いない)
ガスタのチーズケーキを携えて電車に乗ったわたしは、待ち合わせ場所の最寄り駅につくと、すぐさまコンビニを探した——そう、コンビニでコーヒーを買うためだ。
ケーキのお供にコーヒーは付き物。そこで、わたしはブランドもののコーヒーを大量に持参するが、友人にはコンビニコーヒー(しかもSサイズ)を手渡す・・という明らかな嫌がらせをしつつ、何食わぬ顔で談笑を続けるのである。
それにしても、たったの135円でブレンドコーヒーが購入できるとは、日頃からスタバで散財しているわたしにとっては斬新かつ驚きである。大した違いなどないのに、ついブランドのイメージに釣られてあの緑色へ吸い込まれていく自分を、じつに単純で操りやすい人間だ・・と、やや呆れ顔で慰めつつ。
さて、コンビニコーヒーの次は自分用のコーヒーの出番である。駅に近接する商業施設内にある武蔵國珈琲(むさしのくにコーヒー)にて、コーヒとオーツミルクラテ、そして抹茶ラテ×オーツミルクという最高のラインナップをチョイスしたわたしは、圧倒的優位と支配者意識に恍惚の表情を浮かべた——この差別こそが悪役令嬢たらしめる所以、平民は我が足元にひれ伏すがいい!!
こうして、全ての準備が整ったわたしは、チーズケーキの紙袋とコーヒーの紙袋を両手に引っさげ、颯爽と友人の元へ向かったのである。
*
「わざわざコーヒー買ってきてくれたんですね、ありがとうございます!」
「うわっ、なにこれ?!このチーズケーキ、めっちゃ美味しい!!」
(・・・・・・)
この平民は、わたしの悪意をはき違えている。これでは、わたしが普通に「いいヒト」の設定になってしまったじゃあないか。
自分用に豪華なチーズケーキと何杯ものブランドコーヒーを揃えたにもかかわらず、友人には粗末な(といっては失礼だが)コーヒーと小さなチーズケーキしか用意しなかった・・という、明らかな差別的状況を作り上げるためだけに、わざわざコンビニへ寄るなど無駄な労力を費やしたわたしの企みが、友人の純粋なる感謝と喜びによってパァになってしまったのだ。
(じつに面白くないお茶会だ・・)
「意地悪」というのは、一見簡単そうに思えるが、意図して実行するのはなかなか難しいものである。





















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