近所を徘徊していたところ、わたしの大好物である「おむすび」の専門店を発見した。最近オープンした店でもないのに、なぜその存在に気が付かなかったのかというと、歩くのが苦手なわたしは自宅周辺をウロつく習慣がなかったからだ。
我が家は駅から至近距離にあるため、あえて駅から離れる方向へ出向く機会は少ない。おまけに外食も滅多にしないので、そもそも「近所を散策する必要性」というものがない。そんなわけで、地域の防犯パトロールがてら近所をウロウロしてみたわけだ。
おむすび専門店のショーケースには、夜ということもあり残り少ないおむすびと総菜が陳列されていた——どれもこれも健康的なラインナップじゃないか。
じつはここ最近・・いやここ数年、わたしは自らの健康被害の可能性に恐怖を感じている。言うまでもないが、明らかに目に余る暴飲暴食——しかも、糖や炭水化物といった「過剰摂取により人体に悪影響をおよぼすもの」ばかりを貪り食ってきたため、多少の運動をしているとはいえ、インスリンが枯渇するのは時間の問題だとハッキリ認識していた。
インスリンは、血液中のブドウ糖(血糖)を適正な範囲に保つためのホルモンで、すい臓にあるβ細胞が作り出している。そして、β細胞の機能が弱まるとインスリンを分泌できなくなり高血糖状態が続いた結果、わたしが恐れる「2型糖尿病」を発症するのだ。
ちなみに、すい臓のβ細胞を疲弊させないコツは、「ドカ食いしない」「甘いものを食べすぎない」に尽きるのだが、そんなことは百も承知であるにもかかわらず、なぜか両方ともせっせと繰り返しているわたしは、もはや救いようのないバカである。
そんな愚者の代表たるわたしだが、来年こそは「甘い物を控えて、食べる量も減らそう」と心に誓った・・おっと、こんなことを言っても信じる者はいないだろう。
今まで何十回、いや何百回と同じ発言を口にしており、オオカミ少年以上に嘘つきのレッテルを貼られている自覚はある。だが、今回は本気だ。わたしは運のいい方だが、運に頼ってばかりで健全な人生が送れるはずもない——そう思い始めて早十年、もうそろそろちゃんとしようと心に決めたのだ。
そんなわけで、おむすび専門店の暖簾をくぐると、小ぶりなおむすびと健康によさそうな手作り総菜に目を輝かせながら、次々と店員に注文を伝えた。
(おむすび10個というのは、一回の摂取量としては多いかもしれない。だが、どう考えても「ケーキ10個」よりは健康的であるのは間違いない。あと、ひじき煮やサバの味噌煮、大根サラダ、カボチャ煮、豚肉とキノコの生姜焼きなどなど、どれも家庭の味であり、日本が誇る健康な食事そのもの。そう、まずは食事のラインナップから整えていこう)
「来年から」といって、元旦初日から切り替えられるのは、よほどの強靭な精神力を持ち合わせた人格者のみ。わたしのような凡人は、今から少しずつ助走をつけていかないと元旦スタートに間に合わない。だからこそ、今日ここから変えていくのだ。
(今まではこの量を一度に食べ切っていた。だが果たして、世の中の女性たちはこれを何人分の量だと思っているんだろう・・?)
ふとこんな疑問が湧いたわたしは、おもむろにレジ入力をしている女性店員に尋ねてみた。すると、
「そうですねぇ。一般的には一人でおむすび2個程度、お惣菜1~2パックだと思うので・・4人前くらいですかね?」
という、至極当然の答えが返ってきた。そりゃそうだ、一般的にはそのくらいの分量が妥当だし、もっと食べなければ空腹で発狂してしまう・・なんてこともないわけで。
すると、奥に立っていた別の女性店員が「実際には何人分なんですか?」と、興味本位で尋ねてきた。そこで「一応、一人分かつ一食分」である旨を伝えたところ、二人の店員は仕事中であることを忘れて悲鳴をあげた。
(あぁ、やっぱりそうなのか。自分が思っている以上に、わたしの食事量は多いのか・・)
レジを打つ手は止まるわ、転びそうになりながら奥から飛び出してくるわ、若い女性には刺激の強い事実だったのかもしれない。そんな彼女らのリアルを目の当たりにしたわたしは、改めて「ドカ食いは控えよう」と固く誓うのであった。
*
その後、おむすび10個と総菜6パックがどうなったのかは、この場では割愛させてもらおう。




















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