妖怪人間ボンド

Pocket

 

志麻との会話で思い出したことがある。

学生時代の当時、オシャレ最先端と言われるヘアスタイルに挑戦した私。ツヤツヤの黒髪にパッツン前髪、やや後ろ上がりの奇抜なショートボブ。

いわゆる「モード系」で、非凡ながらも洗練された、オシャレヒエラルキー上位者の髪型だ。

 

表参道のカリスマ美容師にカットしてもらい、意気揚々と友人との待ち合わせ場所へ現れた。

「あー、髪型変えたんだね!」

目を輝かせながら友人が近寄ってくる。

「うん、黒に見えるけどネイビーなんだよコレ」

自分からはこのヘアスタイルについての言及を避け、無難な返答として色を暗くしたことに触れる。しかも「ブラック」ではなく「ネイビー」であるオシャレさよ。

 

すると友人は、

「妖怪人間ベムみたい!!」

と、羨望の眼差しで私の頭を撫でた。

 

ーーよ、妖怪人間ベム?

 

すぐさま検索する。どうやら「ベム」ではなく「ベロ」のことだろう。「ベラ」と言えなくもないが、3人を見た瞬間に「ベロのことか!」と私が思ったということは、多分、ベロだろう。

しかもコイツ、髪の毛の色がネイビーだ・・。

 

こんなショックを味わったことがない。

オシャレ番長のこの私が、最先端のモード系ヘアスタイルを披露した第一声が、

「妖怪人間ベム(正確にはベロ)」

となるはずがない。

腑に落ちないが、オシャレじゃない友人には分からない、ハイレベルなオシャレだから仕方ない。

 

 

その日の夜、別の友人が自宅へやって来た。

 

外出時はコンタクトを装着する私だが、帰宅するとメガネに替えている。自宅でしか着用しないようなメガネでも、決して手抜きはしない。

「見るための、見られるための眼鏡」がコンセプトである、アランミクリのオシャレ黒縁メガネ。本日の奇抜なヘアスタイルにマッチする、重厚感あふれるファッショナブルな黒縁メガネは、自宅でくつろいでいるとはいえワンランク上のオシャレを醸し出す。

 

チャイムが鳴り、颯爽とドアを開けた。と同時に、

「うわ、大木凡人(おおきぼんど)!」

玄関で大爆笑する友人。

 

ーーオオキボンド

 

調べるまでもなく彼の顔が脳裏に浮かぶ。

黒髪、おかっぱ頭、黒縁メガネ。

たしかに単語で見ると要素は同じだ。しかし、どう考えても別次元の人だろう。比較するパーツもジャンルも、まったく違うだろう。

 

笑い転げる友人を蹴り出し、鍵を閉める。

 

 

過去の悲惨なエピソードをヘアスタイルのプロに話すと、

「それ、アルアルだよ」

と返された。

 

明らかに似合わない髪型でも、顧客に頼まれれば美容師はやらざるを得ない。しかし、モデルの髪型を持参し、美容師のアドバイス(似合わないからやめたほうがいいよ)を振り切って強引に推し進めた結果、妖怪人間とは言わないが不似合いなヘアスタイルが完成することはよくある。

(あれほど言ったのに・・)

美容師は内心そう思う。ところが本人、鏡を見ながら

「かわいいー!ありがとう!」

となるのだそう。本人の美意識と世間一般の評価は、必ずしも一致しないのだ。

とはいえ、私は「オシャレなヘアスタイル」よりも「自分に似合うヘアスタイル」を選びたい。今思えば、若かりし頃は前者だったのだろう。それどころか自分はかわいい、イケてると勘違いしていたのかもしれない。

 

髪型のプロである美容師は、似合わないヘアスタイルを依頼されたとき、どのように交わすのだろうか。

「あたしはハッキリ言う。それは似合わないよって」

これは今思えば、本当にありがたい助言だ。

「それでもその髪型でって言われたら、できる限りなじむように頑張るよ」

さすがだ。とはいえ、素人の勘違い的なこだわりより、何万人もの髪の毛を整えてきたプロの意見に従うべきだ。

 

だが、アメリカ人は日本人とは多少違うらしい。

「NYにカット10万円のカリスマ美容師がいるんだけど、(あまりに行き過ぎた髪型で)お客さん泣くことあるからね」

 

日本ならば訴訟問題に発展しそうだ。

しかしこれまた不思議なことに、その客は再びその美容師の元を訪れるのだそう。自分に似合っているかどうかより、「カリスマにカットしてもらった事実」のほうが重要なのだ。

 

カリスマ側も、「このアタシがカットしてあげたのに、なんで泣いてるのよ?」くらいの感じらしい。アタシに頼んだのならアタシの好きにさせなさいよ、と。

 

あとはアメリカ人の特徴として、他人の評価より自分の満足を重視する傾向にある

世界中が「似合わない」と言おうが、自分一人が「似合ってる」と思えばそれでいい。つまり、カリスマにやってもらった変な髪型か、自分だけが似合ってると信じる変な髪型か、いずれにせよ「変な髪型」である可能性が高い

 

こうなってくると、似合う似合わないの基準が不明だ。

 

日本人の私はヘアスタイルの主張はせず、「少しでもモテる感じにしてほしい」とだけオーダーしている。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

Pocket

2件のコメント

大木凡人時代めっちゃみたーーい!
そいや里香さんて暗い髪色とロングのイメージが全然ないですー
出会った時は金髪でしたし(笑)

役所で出会って金髪だもんな笑
ついでに夏はビーサンタンクトップだし😂

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です