おむすびの権化たるわたし

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わたしは"おむすびの権化"なので、手作りのおむすびが最大のご馳走といえる。巷では「他人が握ったおむすびなんて、気持ち悪くて食べられない!」という声も聞くが、そんな野郎は餓死すればいい。そもそも相手が友人ならば、仮に汚い手で握っていたとしても喜んで食べるのが"おむすびの権化"たるわたしなのだから。

とはいえ、このわたしにおむすびを握ってくれるというのは、相当な覚悟があってのこと。なんせ、常日頃からおむすびに並々ならぬ情熱と執着を訴えているわたしに対して、現物を支給するというのはある種の挑戦状を意味するからだ。

 

 

「黒帯のお祝いにご馳走させてください」

こんなメッセージが届いたのは一か月前のこと。ならばと手作り弁当を所望したところ、「弁当は作れないので、スタバでコーヒーでもウラベントウでも・・」と消極的な返信があった。であれば、ハードルを下げて「おむすびでいい」と送ったところ、「私はあまり料理をしないのと、自宅の炊飯器が壊れたのに買い直していないため、サトウのごはんのおむすびになっちゃいます・・」と、これまたおむすびすらも却下されるような返信があった。

だがその直後に「塩むすびの材料」というタイトルのスクショが送られてきた。

「炊き立てのごはん適量、塩ひとつまみって書いてありますが、何グラムか記載してもらいたいです、職業病なので・・」

——そう、彼女はベテランSEだった!

 

ここから、料理と無縁の友人による"塩むすびチャレンジ"が始まったのであった。

 

 

「試作品で海苔玉ふりかけのおおむすびを作ってみました。味が濃かったので研究します!」

こんなメッセージと共に、サランラップに包まれたおむすびの画像が送られてきた。——市販のふりかけを適量混ぜたのに、味が濃いとはどういうことだ? もしや彼女は、わたしよりも料理ができないのでは——。

そんな疑惑と期待を胸に、わたしの手元のおむすびが届く日を待った。

 

「また試作品作りました!分量を量ったけど塩分多めでした。味見しながら作ります」

おむすびの画像を見たところで、それがどの程度のものなのかは正直判断が難しい。ただ単にわかめご飯のようなおむすびがサランラップに包まれているだけで、普通に美味そうに見えるのだが——。

 

そんなやりとりを経て、およそ一か月が経過した今日、わたしはついに友人お手製"サトウのごはんおむすび"を手に入れることができた。

 

 

「サトウのごはんをいいやつにしたのと、混ぜる具材は高島屋で買いました!」

——サトウのごはんにいいやつとかあるのか? などと小さな疑問を抱きながらも、高島屋で購入した具材とやらには期待が持てる。本人も、おむすびの出来映えよりも具材に自信があるようで、となるとどう転んでも確実に美味いに決まっている。なんせ、サトウのごはんは誰がどうレンチンしても安定の美味さだし、高級な具材(ほぐし黒豚チャーシュー、紅鮭、緑色の何か)が不味いはずもないからだ。

 

おずおずと差し出された包みを開けると、そこには6個のカラフルなおむすびが並んでいた。

なんていうか、これがコシヒカリだろうが業務用の古米だろうが、具材が百均ショップで買ったものだろうがなんだろうが、こんなにも美しくて心のこもったおむすびが美味くないはずがない。

「衛生面を考慮して、素手では触れていません」などとエクスキューズしてくれたが、わたしに限ってそんなことはお構いなしである。友達が素手で握ったおむすびが食えない・・というのは、そのヒトを友達だと思ってない証拠だ。わたしならば食べられる、どんな手で握ったおむすびであっても!——って、当然ながら友人は手を洗って作っているのだが。

 

そしていよいよ、カラフルな手作り(サトウのごはん)おむすびを頬張る瞬間がやってきた。さぁ、どんな味なんだ——。

(うん、めちゃくちゃ美味いサトウのごはん!)

白米の安定した美味さに舌鼓を打ちつつ、高島屋の高級黒豚チャーシューに唸らされ、あっという間に6個のおむすびを胃袋へと流し込んだのであった。

 

 

このように、サトウのごはんのおむすびでも大喜びするわたしこそが、現世に君臨する"おむすびの権化"なのである。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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