わたしはこれまで、自分自身で「試す」ことにより、様々な事実を確かめてきた。
噛む力が強すぎて歯を骨折するのなら、咬筋にボトックスを打ち筋弛緩させた。
年会費が安くてマイルが1.5倍でたまると聞けば、ユナイテッドのゴールドカードを取得した。
VIO脱毛していたほうがモテると言われれば、光脱毛でツルツルにした。
しかし、数々の「実験」の中でも明らかな変化をみせたのは、まつ毛の増毛剤だ。
頭髪の少なさに悩む男性諸兄には申し訳ない気持ちで一杯だが、今、わたしのまつ毛は明らかに増えている。フッサフサになりつつあるのだ。
まつ毛増毛剤の名前は「グラッシュビスタ」。
医薬品で、睫毛貧毛症(しょうもうひんもうしょう)の患者に処方される薬らしい。
睫毛貧毛症とは読んで字のごとく、まつ毛が不足していたり、不十分であったりする病気のこと。
わたしはその病気ではないが、通院している眼科にグラッシュビスタのポスターが貼ってあったので、興味本位でドクターに尋ねた。
「まつ毛バサバサになるよ」
この真面目な女医がウソをつくはずがないーー。
物は試しに処方してもらうことにした。
グラッシュビスタの有効成分は「ビマトプロスト」というもので、緑内障の治療薬として有名。眼圧を上げる眼房水の排泄を促進し、眼圧を下げることで緑内障の悪化を防ぐのだ。
緑内障治療薬としてのビマトプロストの副作用として、
「睫毛の異常(まつ毛が長く、太く、濃くなる)」
「眼瞼(がんけん)の多毛化」
「眼瞼色素沈着」
などが挙げられる。
そしてこの「副作用」を逆手に取ったのが、アラガン・ジャパンが製造販売する「グラッシュビスタ」だ。
当然、個人差があるのは言うまでもない。
だが、グラッシュビスタを塗りはじめてから5日目。鏡に映る自分の「目」が、なんとなくハッキリ縁取られている気がした。
一瞬ギョッとするも、改めて鏡を覗き込む。
そもそも、ビフォーのまつ毛の撮影をしていないため、本当に増えたかどうかは疑問。
しかし「あれ?」と思うこと自体、明らかな変化というやつだろう。
左目を閉じて、右目で左のまつ毛を確認する。
(長いのと短いのが混在している)
そう、まつ毛の長さがバラバラになっているのだ。
元から生えていたまつ毛がさらに伸びたのかもしれないし、ハゲ部分から新たに生えてきたのかもしれない。
とにかく、まつ毛の量が増え、長さもまばらになっている。
注意書きには、
「ただし、発毛可能な毛包(もうほう)が存在しない場合には本来の効果が得られないことがあります」
と書かれている。
ということは、わたしのまつ毛のハゲ部分は、毛包が残っていたということか。
半信半疑ながらも、処方してくれた主治医へ確認をする。
「気のせいだとは思いますが、まつ毛が増えた気がします」
すると速攻で返信が。
「気のせいではなく、増えて太くなります」
でも、まだ5日だよ…。
どうやら早い人で2週間程度で増毛が実感できるのだそう。私はその半分以下の期間で変化を感知したのだ。
さすがは人間離れした修復力というか生命力というか。
じつは主治医に内緒にしていることがある。
グラッシュビスタの塗布方法は、専用ブラシの先端に一滴垂らし、まつ毛の生え際に塗るだけ。使用済みの専用ブラシは捨て、再使用は禁止。
だがわたしは、ブラシに残った液体をまゆ毛にチョンチョンしたのだ。
まゆ毛のハゲ部分にチョンチョンし続けた結果、なんと、まゆ毛が生えてきたではないか!
あまり余計なことをすると叱られるため、これ以上は自粛する。
しかし、毛包が生き残っていれば毛は生えるものなのだ!ということに、深く感動を覚えた。
今まで薄毛(AGA)治療など、まやかしだと鼻で笑っていた。
しかし実際に自分のまつ毛やまゆ毛が生えてきたとなると、それらの治療もバカにはできない。
念のため、おでこの真ん中あたりにグラッシュビスタを塗ってみようか。そんなところから毛が生えてくれば、それこそ誰もが信じるだろう。
(そこに毛包が存在すればの話だが)
Illustrated by 希鳳
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