悪魔の白い粉・・といえば、覚せい剤やコカインを想起する者が多いだろう。強烈な多幸感や意識の高揚、疲労や眠気が吹き飛び集中力が一気に上がるといった、まるで魔法のような効果が得られるのだそう。
一方、その反動の強さが"悪魔"と呼ばれる所以でもある。抑うつ、強い疲労感や焦燥感、さらに激しい眠気や虚無感に襲われた結果、「もう一度使いたい」という欲求が湧いてくる。そして継続的な使用がはじまると、幻覚や被害妄想、フラッシュバック、歯がや髪が抜ける、暴力的・攻撃的になるなど精神や人格が崩壊した末に、最悪の場合は死へと導かれてしまうのだ。
これらの症状は、脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」が異常に増加するのが原因。そして、ドーパミンが異常蓄積した結果、"報酬系"と呼ばれる快楽中枢に強烈な刺激が走り、多幸感を得られるようになるのだ。さらに、ノルアドレナリンやセロトニンも過剰放出されることから、興奮や錯乱、不眠を誘発するとされている。
これら一連の流れにより"自然報酬系"が破壊されることから、食事や会話、音楽、運動、恋愛といった「普通の楽しみ」に対して無反応となり、覚せい剤でしか快楽を感じられなくなった末に、再使用や依存、自殺衝動へと繋がるわけだ。
なお、覚せい剤は脳や神経細胞を損傷・破壊するため、脳に慢性的な炎症反応を起こしたり、不可逆的な損傷が残ったりすることがある。こうなったらもう二度と健全な状態には戻れないわけで、自業自得とはいえ"取り返しのつかない後悔"とはこういうことを指すのだろう。
——そんな恐るべき「悪魔の白い粉」と、肩を並べるであろう白い粉をわたしは知っている。それは、砂糖だ。
依存と健康被害という面だけみれば、覚せい剤も砂糖もさほど違いはない・・といっても過言ではないほど、人体にとって有害な砂糖。もちろん「摂り過ぎれば」の話ではあるが、人類は慢性的に糖を欲して摂取し続けた結果、肥満や糖尿病、心血管疾患、脂肪肝などのリスクを背負わされることとなった。
そして砂糖も、脳内でドーパミンを放出させることで快楽や満足感を得ることができる点は、覚せい剤などの薬物を使用した時と同じ原理であり、依存といい離脱症状といい、程度の差はあれど同じ道を辿るのである。
このように、人体にとって有害である悪魔の白い粉——すなわち、砂糖や小麦粉への依存から脱却するべく、わたしは今日から甘いものを断つことにした。
ちなみに、特に注意するべきはコンビニとカフェだろう。コンビニで何気なく飲み物やデザートのエリアへ迷い込んでしまうと、さっきまで買う気などなかったのについつい甘いものへ手が伸びてしまうのは、まさに悪魔のチカラ。
だからこそ、コンビニに入ったら水とお茶のエリアへ直行し、その他の商品には見向きもせずにレジへと向かう——という行動をルーティン化することにした。
そしてもう一つの罠であるカフェについて、こちらはケーキやプリンなどわたしの大好物が手ぐすね引いて待っているだけでなく、抹茶ラテやぶどうジュースといった甘い飲み物も虎視眈々と出番を待ち構えているため、メニューの時点で目移りしないことが重要。
よって、ブラックコーヒーとカフェラテのみで布陣を形成し、糖との縁を断ち切る作戦を敢行することにした。ちなみにこれは比較的容易なことで、そもそもコーヒーが好きなわたしにとって、"甘い飲み物"を頼むとすれば抹茶ラテくらいのもの。よって、抹茶欲さえ抑えればどうにでもなるのである。
このように、"白い悪魔"と手を切るべく強靭な意思と明確な信念を持ったわたしは、とある珈琲店で4杯目のコーヒーを注文するに至った。
ドリップコーヒー、アイスコーヒー、ホットカフェオレ・・という王道のラインナップを制覇したところで、「ちょっと変わった飲み物が飲みたい」という欲求が湧いてきたわたし。
(この店で今までに飲んだことのないコーヒーは・・・おぉ、これだ!)
ここは足繁く通う個人店だが、来るたびに同じ注文しかしないため、たまには違うものも味わってみよう・・という気になったのだ。そんなわたしの心境の変化が意外だったのか、商品名を聞いた店主は目を丸くして「あら、珍しいわね。本当にそれでいいの?」と、聞き返してたほど。
しばらくすると、満面の笑みを浮かべた店主が商品を運んできた。さぁ、この店において初注文となる"アレ"のお味はいかに——。
「はい、おまちどうさま。アイス、内緒で二つ乗っけておいたからね」
そう、わたしが注文したのは「コーヒーフロート」だった。しかも注文の時点で、アイスクリームが甘い物・・すなわち"有害物質たる糖"であることを、きれいさっぱり失念していたのだ。
おまけに二つも乗っているではないか。嬉しいやら悲しいやら・・いや、これは喜ぶべき事態である。わたしの大好きなアイスが二つも乗っているなんて、ラッキー以外の何物でもない。しかも店主の優しい気持ちがこもっているわけで、これに対して「じつは、今日から糖を断っているので・・」というくだらない理由で拒絶することなど、ヒトとしてあるまじき行為である!!
——あぁ、これこそが"悪魔の白い粉"の底力なのかもしれない。
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