実際にあるんじゃないか?真夏のレンタカー殺人事件

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夏真っ盛りの八月に、洗濯物が乾かない・・なんてことはさすがにないはずだが、わたしが泊まったホテルでは翌日になっても衣服は湿っていた。いや、湿っているどころか脱水が終わった状態から、ほぼ変わらぬ湿り気を維持したまま朝を迎えたのだ。

ドライヤーで暖をとりながら寒さに耐えるわたしだが、部屋の温度は28度に設定してあるわけで、なぜ凍えながら過ごさなければならないのか理解に苦しむ。こうなったらエアコンを暖房をにするしか——いやいや、さすがにそれはない。ならば窓を開けて外気を取り込み、室温を中和してみるか。

というわけでさっそく窓を開けると、モワンとした生暖かい空気が流れ込んで来た。まったく不快だが、ドライヤーで暖をとりつづけるよりはマシだろう。

 

とまぁこんな異常気象(?)なわけで、旅先で着る服に困ったわたしは真剣に考えた。部屋は寒すぎてとてもじゃないが洗濯物は乾かない。かといってベランダがあるわけではないから、外へ干すこともできない。そもそもここは熊本県、色々と情報不足な異国の地で、普段以上のアイディアが浮かぶはずは・・・あった!!

生乾き臭を放つ湿った衣服を抱えると、わたしは駐車場へ走った。いつぞやのSNSで、車のボンネットで目玉焼きを作る動画を見たことがある。ということは、ボンネットとまではいかなくとも、ダッシュボードやフロントシートへ洗濯物を並べておけば、太陽の力ですぐに乾くはずだ——。

そんな、古典的だが実用性の高そうな乾燥方法に託すべく、わたしはレンタカーのドアを開けた。

 

これはむしろ外にいるよりも暑い・・いや、暑いなんてもんじゃない。不快を通り越して危険である。過去には、子を車内に残したままパチンコに勤しんでいた親が、熱中症により子を死亡させてしまう・・という事件があった。今ならば、他人事としてではなく事件の恐ろしさを感じられるわけで、炎天下でエンジンを切った車内は棺桶といっても過言ではない。

そんな恐るべき高温を保つ車内に手を伸ばし、そっとダッシュボードに触れてみた・・熱っっっ!!!

こんなところに手を載せておけば、間違いなく火傷するだろう。JAFが行った真夏の車内温度の実験によると、外気温35度の駐車場に止めた黒色の車両の車内温度は、一時間と経たずに50度を超えた。さらに、ダッシュボードの最高温度は79度まで上がったことから、ボンネットだけでなくダッシュボードでも目玉焼きを作れることが証明されたのだ(卵の黄身は65~70度、白身は80度未満で固まる)。

 

喜び勇んだわたしは、さっそくボンネットに帯(柔術で使うアイテム)を横たえた。帯は分厚いため、洗濯物の中でもっとも乾きにくい。まずはこいつをカラカラにしなければ——。続いて、柔術衣の上着を運転席の背もたれにかぶせたり、タオルや下着を後部シートに広げたり、生乾きの衣服をすべて並べることに成功した。

(さてと、太陽のチカラってやつを見せてもらおうか・・)

 

 

二時間後、洗濯物はカラッカラに干からびていた。もしかすると一時間後には水分を失っていたかもしれないが、少なくとも二時間経つと驚くほどの干物が出来上がる・・ということが証明されたのだ。

むしろ、繊維の芯まで熱がこもっているため、あまりの熱さに衣服を畳むことができなかった。アツッ!と何度もつぶやきながら、電子レンジで温めすぎたおにぎりのフィルムを剥がすときのように、触れては手放し、また触れては手放し・・を繰り返しながら、熱々の衣服や帯を畳んだのであった。

 

温度を下げる科学の力は素晴らしいが、なにもせずともあっという間に水分を奪う"太陽の力"というのも非常に恐ろしい。なんせ、水分を失えば人間は生きられないわけで、それはすなわち、なにもせずともエンジンを切った車内にいればヒトは死ぬ・・ということなのだから。

(真夏のレンタカー殺人事件・・とかあり得るんじゃないか)

夏はまだまだ続くわけで、太陽にはくれぐれも注意すべきである。

 

Illustrated by 希鳳

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