見た目がスイカのパンか、それともパンでできたスイカか

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ニンゲンがいかに単純で平和な生き物かが分かる現象として、夏祭りの出店で売られている"かき氷の味"が挙げられる。赤いシロップは「イチゴ」、緑のシロップは「メロン」、黄色のシロップは「レモン」と、言われなくても味が決まっているわけだが、出店の前で「うーん、どれにしよう・・」と悩む姿は哀れである。なぜなら、あれらの味はどれも同じだからだ

無論、街中のシャレたかき氷店ならば、果汁入りのちゃんとしたシロップを使っているだろう。だが、祭りやフェスなどのイベント出展程度ならば、使用しているシロップは残念ながらどれも同じ味なのだ。

その証拠に、シロップの裏面に記載された原材料名を見比べると、どの味も「果糖ぶどう糖液糖、香料、色素、甘味料」あたりで構成されており、特定のフルーツの味など含んでいないのだ。それなのに、なぜか「うん、メロン味おいしい!」となるわけで、まったく不思議である。

 

この不思議な現象はどうやら"脳の錯覚"によるものらしいが、逆にいうとニンゲンの脳というやつはいとも簡単に騙されるということだ。かき氷のみならず、スイーツが赤ければイチゴやリンゴ、緑ならメロンやキウイ、黄色ならレモンかバナナの味だと、勝手に決めつけるのだから愚かである。

とはいえわたしも、濃緑色のスイーツがあれば「お、抹茶か!?」と飛びついてしまうので、あまりデカいことは言えないのだが・・。しかしここ最近、緑色の菓子は抹茶を差し置いてピスタチオが台頭しているので、非常に面白くないということも付け加えておこう。

 

そんなわけで、わたしは目の前に並べられた四角いスイカを眺めている。いや、正確には"スイカの模様をした角食パン"だ。

(これはたしか、パンコーナーに並べられていたはずだが)

少し前に、パンコーナーにこのスイカパンがあったことを思い出した。だがその時はなんとも思わなかったし、むしろ「スイカを冒涜する気か!?」と怒りに震えたほど。もちろん、スイカパンを手に取ることはなく、いつの間にか記憶からも消えていた。

ところが今日は、なぜかカットスイカ売り場の隣りに、スイカパンが並べてあったのだ。たしかに、本物のスイカとスイカパンが並んでいたら、それは魅力的だし思わず手が伸びてしまう。

 

はじめは疑いの目でスイカパンをジロジロ眺めていたが、「宮城県ご当地パン」や「元祖スイカパン」という表示に心を動かされた結果、わたしはいつの間にかスイカパン一斤をカゴへと放り込んでいた。それと同時にカットスイカ(大)をすべて回収すると、すぐさまレジへ並んだ。

 

 

帰宅したわたしは姿勢を正し、スイカパンをちぎって口へと運んだ。美しい緑色の外皮の内側には、数センチの白い皮がある。その内側は真っ赤な果肉で埋め尽くされている。おまけに、ところどころ黒いチョコチップがスイカの種を演出している。

(なんて再現性の高いパンなんだ・・・)

わたしはむしろ感動を覚えた。たしかに、スイカというのは派手で単純なカラーリングをしている。そしてこのパンは、そんなカラーリングを見事に再現しているのだ。パンというよりスイカに近い・・いや、でも小麦粉でできているからパンなのか——。

 

そんな迷いを吹き飛ばすかのように、わたしは一欠片のスイカパンを静かに噛みしめた。二度、三度と咀嚼を繰り返したところで一言、

「うん、これは単なる食パンだ」

スイカの味など微塵もしない。目を閉じれば、ちょっと硬めの食パン以外のなにものでもない。しかし目を開けると、そこには美しいほど派手な四角いスイカが鎮座しているわけで、脳みそがバグるのも無理はない。

そこでわたしは「これはスイカ味のパンだ」と強く自分に言い聞かせ、再びスイカの外皮と白い部分、さらに真っ赤な果肉と黒い種を掴んでちぎった。そう、これはスイカの味がする特別な食パンなんだ——。

 

・・正直に言おう。やはりスイカの味はしなかった。どこをどう贔屓目に見ても、食パンの味しかしなかった。だが、脳内でイメージするスイカの味・・たとえばスイカゼリーとかスイカジュースのような、スイカの加工物の味を思い浮かべながら咀嚼を繰り返すと、味覚とは別の部分でスイカを感じることができるようになったのだ。

さらにこう思った。実際にスイカの味がする食パンなど、美味いのだろうか——。

スイカというのは、あのみずみずしい果肉に貪りつくから美味いのだ。それをわざわざ、パサついた小麦粉の塊に練り込んだりすれば、スイカの良さを損ねるのは明白。スイカは果物(正確には野菜だが・・)だからこそ美味いのだ。

そしてパンは、見た目が良ければ魅力が増すのも事実である。その証拠に、好きでもないパンの耳を完食してしまったのは、見た目がスイカの皮だったからに他ならないわけで。

 

 

そんなわけで、味は普通の食パンだが見た目は完璧な四角いスイカ一斤(もしくは一斤半)を、一気に食い終えたのである。

それよりも、見た目がスイカのパンを食べたのか、パンでできたスイカを食べたのか、どちらがしっくりくる表現なのかはもうしばらく考えるよしよう。

 

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