「柿胃石」の烙印を押されし者

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(圧巻、というべきか——)

テーブルの上には50個の柿が雁首揃えて並べられている。四角い奴、丸い奴、橙色の奴、黄緑色っぽい奴・・・。全員きれいに磨いてやったので、ツヤツヤと輝いている。

それにしても、柿というのはこうも顔が違うものなのか。過去にこれほど大量の柿を並べたことはなかったので、柿という奴らにそれぞれの「顔」があるだなんて、考えてもみなかった。

 

そして改めて、同じような形状だと思っていた柿を上から見下ろすことで、一つとして同じ個体は存在しないということを知るわたし。まさに柿の老若男女が一堂に会した、大家族の集合写真のようだ。

 

果物について、どんなものでも例外なく「歯ごたえ」を重視するわたしは、柿ももちろん、かぶりつけばシャキッと音のする個体を好む。今回の「柿の大家族」は近所の友人からもらったもので、売り物ではなく庭で育った究極の天然モノ。そのため、熟成度や糖度に個体差はあるものの、友人の気遣いで「キャッチボールができる硬さのもの」を中心に、イキのいい奴らが集められた。

大小さまざまな柿を食べ進めていくと、種のあるものとないものがあることに気付く。その違いはわからないが、柿の種というのは表面の焦げ茶色の部分が柔らかいため、勢い余って種の表面をかじってしまうことがある。

若干の苦味を感じるものの、スイカの種を噛んだ時よりも後悔は少ないため、さほど慎重になる必要はない。それでも、気分よくガブリとかぶりついた先に種があったりすると、やや意気消沈するため種はナイほうがありがたい。

そのため、種に咀嚼を阻まれることなく食べ終えることができた際には、ヘタまでしゃぶりつくす勢いで満喫するのみならず、どこか「勝利」を感じる瞬間でもあるのだ。

 

・・こうして、あっという間に5個の柿を胃袋へと送り込んだわたしだが、当然ながら「一抹の不安」が消え去ることはない。一回の食事で柿を5個食べ、一日平均5~10個を摂取する生活を二週間以上続けてきたわたしは、「柿胃石」の恐怖に脅かされていた。

それでも、生モノである柿を長期間放置することはできないため、日々粛々と消費せざるを得ないのだから、柿胃石を発症したとしても致し方ない。

半ばあきらめ気味に、来る日も来る日も柿を食べ続けたわたしは、また新たに大量の新鮮な柿を手に入れてしまったわけで、もはや「柿胃石」という烙印を押されたに等しいわけだ。

 

医療法人社団爽治会のサイトによると、過去に「柿胃石」と診断された患者の多くは、「柿を毎日2,3個食べていた」と話しているのだそう。また、干し柿を一度に6個食べたことが原因で、胃石が見つかった症例もあるのだとか。

(干し柿6個って、毎日10個食べてるわたしはどうなるんだ・・・)

「胃石」とは、果物や野菜の繊維が胃の中で固まり、石のような塊ができる病気のこと。通称「植物胃石」と呼ばれ、そのうちのおよそ8割が柿によるもの。ちなみに柿胃石は、柿に含まれるシブオールという成分が胃酸と混ざり、食物繊維などを巻き込んで石のような塊となることで発症する。治療方法として、内視鏡を使って胃石を砕くほか、コカ・コーラによる溶解療法を用いることもあるのだそう。・・嘘みたいな本当の話である。

 

柿胃石はとくに前触れもなく発症するため、多くの場合が外科的な治療を必要とする。よって、こうしてむしゃむしゃと柿を喰らうわたしも、数分後には胃痛により悶え苦しんでいるのかもしれない。

そんな恐怖は微塵もない・・とは言い切れないが、それでもこの美しい橙色を見ているとついつい手が伸びてしまうのだから、柿とは恐ろしい果物である。同様に、かぼちゃや栗といった秋を代表する濃い色どりのものも、胃石を引き起こすタンニンが豊富に含まれているため注意しなければならない。

 

つまり、この時期に美味いとされる食べ物は、植物胃石を発症させる可能性が高いのである。そしてそれらに限って、カラフルで美味で癖になる食材が揃っているとあり、なおさらたちが悪いのだ。

あぁ、わたしの胃袋はどこまで耐えられるのだろうか——。

 

 

眼下に広がる、圧倒的絶望感を放つ美しい橙色の玉石を眺めながら、欲に勝てず不毛な葛藤と戦うわたしは、胃袋をさすりながらも柿を喰らうのであった。

 

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