ラブホテルの入り口

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街を歩いていて立ち止まりたくない場所、というのはいくつかあるだろう。たとえばちょっとエッチな、あるいは明らかにいかがわしい店の前に留まるのは、ハードルが高いと感じる人は多いかもしれない。

だがわたしは、そういった店の前に立つことはどうも思わない。恥ずかしくもなんともないのだ。むしろわたしがその店の女の子だと思う人間など皆無なわけで、あったとしても用心棒か客引きといったところだろう。

ガラス越しに、わがままボディのバニーガールたちの尻を眺めていたこともあるが、その店から出てきたマネージャーと思しき男から、注意されることもスカウトされることもなかったという過去もある。

 

しかし、ラブホテルの前だけは立ち止まりたくない。

少なくとも一人で入ることはないわけで、その入り口に立っているということは、誰か相手を待っていることになる。つまり、待ちぼうけをくらった哀れなオンナだと思われるからだ。

 

ところが最近、なぜかラブホテルから出てくる男女と鉢合わせすることが多い。というのも、そのホテルの入り口が大通りに面しているため、物理的にドア付近を通過せざるを得ない事情もあるが、それにしてもここ数日は高確率でラブホ利用者に遭遇するのである。

これまでも、ホテルに出入りするクリーニングやタオル業者とすれ違うことはあったが、さすがに利用客と会うことはなかった。そりゃそうだ。こちらも目的地へ急いでいるわけで、ホテルの前など一瞬で通り過ぎてしまう。よって、利用客と鉢合わせするというのはかなりレアな出来事であるにもかかわらず、ここ最近はそのラブホを通るたびに、必ず出会い頭に男女とぶつかりそうになるのだから、なんともタイミングが悪すぎる。

 

 

先日出会った男女、あれは多分出会い系かデリヘルだろう。男は中年の冴えないオッサン、そして女は二十代前半で、服装が夏のように薄着だったので印象に残っているのだ。最近は春のような気温が続いているが、それでも肩出しワンピースはさすがに気が早い。

つまり、女は車で移動しているのだと想像できる。近くにワゴン車が止まっていればビンゴだ――。

しかし、それらしき車は見当たらない。そして男はソワソワしながら小さく手を振り、頭を下げながら駅へと向かっていった。対する女は、大きな声で「ありがとうございましたぁ!」と言いながら、手を振っていた。

昨日出くわしたのは、男女二人に加えて小学一年生くらいの子どもという三人組だった。わたしは一瞬目を疑ったが、そこは紛れもなくラブホの入り口で、今まさに自動ドアが開いて家族三人(?)が現れたのだ。

(こ、これは家族でいいのか?こんな小さな子どもの前で、親は行為に挑んだのか?もしもそうじゃないとしたら、何かの撮影か?よく見ると、子どもの服が発表会の衣装のようにみえる。そもそも、性行為以外の目的で入店したとでもいうのか?だとしたら、なぜあえてラブホを選んだのだ?)

わたしは悶々としながらも、速度をゆるめずに通り過ぎた。そしてすれ違いざまに、家族の会話が日本語ではないということだけは確認できた。

今日、またもやラブホから出てきた男女とぶつかりそうになった。

今日のカップルは、中年とまではいかないが決して若くはない二人だった。事を済ませて帰ろうとしたところで、いきなり見ず知らずのオンナに顔を見られてはきまりが悪いだろう――。そう思ったわたしは、あえて二人の顔を見ずにその場を去ろうとしたところ、

「大丈夫ですか?!すみません、よそ見をしていて」

と、男のほうが丁寧に謝ってきたのだ。思わず顔を上げると、男も女も目をそらすことなく、しっかりとわたしの目を見ながら再び謝罪したのだ。

バツが悪いわたしはそそくさとその場を離れようとした。その離れ際に、二人の立ち話が聞こえてきた。どうやら、明日の仕事で使うデータについて打ち合わせをしている様子。・・もちろん、ラブホの入り口の目の前で。

 

 

ラブホテルというのは、なにかと好奇心をくすぐる場所である。

 

Illustrated by 希鳳

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