ユニクロの功罪

Pocket

 

「ユニクロの商品は本当に優秀である」と、多くの日本人が感じているだろう。値段といい生地といいデザインといいカラーバリエーションといい、文句のつけどころがないくらいに満足できる物ばかりからだ。

とくに冬場は、国民のほとんどがユニクロ製品を身につけている可能性が高い。そう、ユニクロの代表作ともいえるヒートテックの存在だ。

 

さらにヒートテックは種類も多いため、タンクトップや長袖インナーに加えて、タイツやレギンスそして靴下まで、全身コーディネートが可能である。

また、ワンシーズンで買い替えることになったとしても、我々に罪悪感を感じさせない価格設定となっているため、全国どこでも、いや、世界中どこにいても、ユニクロの衣服さえあれば快適に過ごすことができる。

 

中でもイチオシは「暖パン」だ。ヒートテックにプラスして、裏起毛で温かい上に着回しがきくため、冬の必需品といっても過言ではない。

そしてわたしは暖パンマニアのため、ブラック3本、オリーブ1本、ベージュ1本、ネイビー2本、ブルー1本と、合計8本の暖パンを所有している。よって、

「こいつ、昨日もおとといも黒色のパンツ履いてたな・・」

と思ったとしても、それは異なるパンツであるから安心してもらいたい。

 

暖パンの優れた点は保温力だけではない。左右の尻にポケットが付いているが、フロントのポケットはダミーであり何も入らない。おまけにボタンが一つ、あたかもジップで開くかのように存在するが、これも単なる飾りのためボタンの機能は備わっていない。

つまり、あたかもちゃんとしたパンツに見せつつも、極限までシンプルを追求したオシャレパンツなのだ。

 

さらに、ウルトラストレッチ素材の効果により、正座をしようが体育座りをしようが、足が痺れたりうっ血したりすることはない。これこそが暖パンの誇るべき機能性であり、毎日履きたくなる所以なのだ。

 

・・・こうして、ユニクロのストレッチ素材パンツに甘やかされたわたしは、いつしか下半身はピタピタのフォルムを好むようになった。

元からずんぐりむっくりとした体型のため、ワイドパンツのようなゆったりとしたフォルムのズボンを履こうものなら、安定感のある地蔵にしか見えない。そのため、少しでも凹凸というか隙間を強調するべく、ピタピタのパンツで錯覚を起こさせようとしているのだ。

――そんな習慣が仇となった。

 

先日、新しい柔術衣を購入したわたし。初めて購入するメーカーだったため、種類は違うが同じメーカーの商品を試着した上で、満を持して購入ボタンをクリックした。

ところが、実際に届いた柔術衣は若干デカかった。というか、袖と裾がなんとなく長かったのだ。

(折れそうなくらいに細い友人と同じサイズなのに、なんでブカブカなんだ?)

・・・要するに、わたしの手足が短いのだ。この時点でその事実に気付いていればよかったが、「洗濯すれば縮むだろう」などと楽観的に捉えていたため、同じサイズの色違いを追加購入してしまったのだ。

 

しかし、如何せんピタピタのフォルムでないと落ち着かない。ずんぐりむっくりがブカブカの衣装を身につければ、なおさらずんぐりむっくりして惨めである。そういえば、周囲の人間もわたしを見て笑いを堪えているように感じる――。

そんな妄想に憑りつかれたわたしは、もう一つ下のサイズの柔術衣をクリックした。同じタイプの柔術衣、しかもわりと高価なものを3着も購入するとは、正気の沙汰とは思えない。それでも、とにかくピタピタでなければ気がおさまらないのだ!

 

そして本日、待ちに待ったワンサイズ下の柔術衣が届いた。さっそく袖を通す。

(うん、ピッタリだ!)

そして肝心のパンツへ足を突っ込む。

(・・・ちょっとパツパツだけど、しゃがめるから大丈夫だろう)

軽く屈伸をすると、尻と太ももの布が最大限に引っ張られて、まるでプラスティック素材でできているかのように硬くて平坦になった。さらに縫い目が足に食い込んで、手作りチャーシューのようにいびつな形状を生み出した。

(・・これは気のせいだ)

強い意志により「現状は気のせいである」と断定したわたしは、屈伸のついでにヤンキー座りでしばらく様子をみることにした。

 

膝の布がはち切れんばかりの圧力でツルツルになっている。後ろは、尻と太ももに引っ張られたウエスト部分が、尻の割れ目あたりまで下がっている。おまけに、ギリギリ腰骨に引っ掛かっている紐が、硬いベルトを無理に巻いているかのような鈍い痛みを刻んでくる。

それよりなにより、つま先が痺れてきた。ついでに血色も悪くなってきた。このままでは足の感覚を失ってひっくり返ってしまう――。

 

こんな思いをしなければならないのは、すべてユニクロのせいである。

ユニクロが、冬は暖パン夏はエアリズムという高伸縮素材の優れたパンツを販売するせいで、それに慣れてしまったわたしの足がピタピタ以外を許さなくなったのだ。

 

(く、クソゥ・・。だからといってワンサイズ大きいパンツを履いたら、わたしのポリシーが崩壊してしまう。なにがなんでもピタピタがいいんだ!!)

 

 

髪の毛が抜けそうなほど悩んだ末に、わたしは、メルカリを頻繁に利用する友人へメッセージを送っているところである。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です