今日、久々になか卯で昼飯を食べた。
なか卯との出会いは大学時代。バイト先の雀荘から最も近い牛丼屋(丼もの屋)がなか卯だったため、麻雀で負けたわたしはなか卯まで走らされていた。
うろ覚えだが、あの当時のなか卯は「卵の黄身の色が、オレンジに近い濃い黄色」であることが特徴的な牛丼屋だった気がする。
そのため、牛丼が好みではないわたしは、なか卯の丼ものを食べた記憶がない。
しかしここ最近のなか卯は「親子丼」がウリの様子。さらにうどんやそばも人気らしく、これらのセットが大々的に宣伝されていた。
(牛丼は好きではないが、親子丼ならばなんとか食べられるかな・・)
などと考えながら、わたしは店内へと足を踏み入れた。
そんなわたしは、このような「丼もののファストフード店」を見ると、とある独自の注文方法を思い出す。
やはり学生時代のこと。麻雀の帰りに先輩が「吉野家へ行こう」と言い出した。一人勝ちをした先輩のおごりとのことだが、わたしは牛丼を食べないため、吉野家へ行くことに反対した。
「おごりなんだから、黙ってついてくればいいんだよ」
そうピシャリと言い切られると、負け犬の分際のわたしには返す言葉がない。
しかたなく皆の後に続いて、人生初となる吉野家の暖簾をくぐったのだった。
店内でメニューを見るも、やはり牛丼しかない。いっそのこと、白米と漬け物だけでいいのだが――。
すると誰かが、
「牛丼大盛り、つゆだくネギだく」
という注文をした。
(そんなオーダーの仕方があるのか・・・)
つゆだくは分かるが、ネギだくというカスタマイズをそのとき初めて知ったわたし。
(それならば、さらにアレンジしてやろう)
そしてわたしは、このようにコールした。
「牛丼大盛り、つゆだくネギだく肉なしで!」
店内が一瞬、静まり返った。メモを取っていた店員が顔を上げると、不審げな表情で「・・肉なし?」と聞き返す。
もちろんその通りだ。肉は要らないから、その分をつゆとネギで埋め尽くしてくれればいい。
「えっと、肉なしにすると、ほとんど何もない状態になりますが・・」
「はい、それでいいです」
およそ牛丼屋で交わす内容ではなかろうやり取りに、一緒にいる先輩らが目を丸くする。
「おまえ、肉食えないの?ならオレが食ってやるから、わざわざ肉抜くなよ!」
「いや。その分玉ネギ食べるから、遠慮しとくよ」
こうしてわたしは人生初となる吉野家で、これまた人生初となるカスタマイズオーダーに挑戦し、見事、「つゆだくネギだく肉なし」という奇跡の丼を手に入れたのであった。
それ以降、わたしは吉野家で飯を食えるようになった。言うまでもなく毎回、「つゆだくネギだく肉なし」を掻っ込むのだが。
そもそもわたしは牛肉が嫌いなわけではない。さらに、なぜ、ファストフードの牛丼が食べられないのか、自分でもよく分からない。
だがとにかく好きではないのだ。
そして同様に、親子丼の鶏肉も好きではないわたし。
厳密には、ささ身のような歯ごたえのある部分は食べられるが、ブヨブヨした皮の部分が食べられない。
しかし、親子丼の大部分を埋め尽くす「卵とじ」は大好物である。
ふっくらジューシーな溶き卵に、コクのある割り下とのハーモニーは、卵とじを支える白米にまで染みわたり、まさに極上の逸品といえる。
そんな、卵と割り下との仲を引き裂く存在が、鶏肉なのである。
手鍋を使って店舗で一つずつ手作りしているということは、鶏肉を抜いてくれといえば可能な気がする。
しかしいい年して、「親子丼の鶏肉を除いてほしい」などという幼稚な注文は、さすがに憚られる。
とはいえ、どうせ鶏肉を食べないのならば最初から頼まないほうがエコである。かつ、店員にとっても調理の手間が省けるかもしれないし、おめおめとフードロスを生む必要などないわけで。
ここは勇気を振り絞って「肉なし」のコールをするべきではなかろうか――。
様々なシチュエーションを想定しすぎたわたしは、店員が食券を持って行ったことに気がつかなかった。
よって目の前には、てんこ盛りの鶏肉が卵によってとじられた、美味そうで残念な親子丼が置かれたのである。
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